ゴキブリは「史上最強のしぶとさをもつ生物」
そこに加えて、筆者がこのように考えるのは、ゴキブリが「史上最強のしぶとさをもつ生物」だからだ。
よく言われることだが、ゴキブリは核戦争後の地球でも繁栄できるほど生命力が高いと言われる。もちろん、放射能に対して強いのは、ゴキブリだけではなく、すべての虫に当てはまる。しかし、何よりもゴキブリは、スリッパで叩いても死なず、逃げ回ったりするなど生命力が強く、食欲も旺盛だ。
NewsWeek日本版の「ゴキブリが核戦争をも生き延びる理由」(22年10月13日)の中には、オーストラリアのロード・ハウ島というところで、外来種であるネズミのせいで80年前に絶滅していたと思われていたゴキブリが、実はしぶとく生きていたことが最近になって発見されたという。
このようにゴキブリは徹底的に殺しても、いくら駆除しても、外敵の目を盗んで、どこかで必ずしぶとく生きながらえる「最強の生物」なのだ。
それはつまり、飲食店の厨房や食品工場が、定期的に害虫駆除をしたり、衛生管理を徹底したところで、必ずどこかに潜んでいるということだ。だから当然、ハンバーガーのバンズやサラダの間にも紛れ込む。人間がいくら目を光らせても、それを完全に防ぐことは困難だ。
料理に生きたカエルが入っていた。食品に生きたゴキブリを見た――。自分たちが毎日食べているものに対して、そんな気持ちの悪い話をする人を「うそだ」「自作自演だ」と叩きたくなる気持ちはよくわかる。ただ、野菜や肉など自然由来の原料を使って、人間が調理をしているわけだから、こういうヒューマンエラーはあって当然だ。むしろ、「ありえない」と考える方が不自然である。
日本では「安心・安全」を社会全体でうたいすぎてしまったせいで、強迫観念のように「無菌」「清潔」「ゼロリスク」を追い求めしまうきらいがある。
しかし、本来、人間の体など雑菌だらけだし、我々の身の回りに微生物やら菌やら虫があふれている。野菜や肉、魚にも菌や微生物は山ほどついているし、小さな虫など気づかないうちに一緒に口に入れている場合もある。
ネジだとか鉄片などの混入は被害もあるが、虫やらカエルの混入など、食中毒になるわけでもない。かつては、見つけてもピッとよけて、「すぐ作り直します」でよかったはずだ。
「虫が入っていた」とわざわざ写真に撮ってアップして騒ぐ方も、それに対して「うそ」「自作自演」と叩く方も、もっとおおらかな気持ちで、「異物混入」というものに接してみてはいかがだろうか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)