空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の佐々木恭子氏の原稿を特別に掲載します。

【雨の日にはシャンプーの販売数が増加する】「経験則」や「勘」だけに頼るのはNG。「気象情報」をビジネスに活用する方法Photo: Adobe Stock

ビジネスに気象情報が役立つ

「気象情報」というと、天気予報や防災など普段の生活に利用されるものと思われるかも知れませんが、実はビジネスにも活用されています。

 農業や漁業、建設業などあらゆる産業で、自社の事業が気象の影響を受けていると考えている企業は6割以上もあり、企業活動の中でも気象情報は重要です。

 特に、スーパーやコンビニエンスストア、百貨店などの小売業においては、商品の売れ行きや客足の伸びなどが、天気や気温、湿度などにより大きく左右されます。

 そこで、これらの気象を味方につけて、商機を逃さないように気象情報が利活用されているのです。では、どのように活用するのでしょうか。

アイスが売れ始める気温は何度?

 気象情報を利活用するといっても、まずは気象と商品との間にどのような相関があるのかを把握する必要があります。

 気象庁が公開している過去の観測値の気象データ(気象庁ウェブサイト「過去の気象データ」)を用いて調べられた、気象と商品の関係についての事例を紹介します。

 仙台のスーパーマーケットにおけるファミリーアイス(大容量のアイスや複数の本数がひとパックになったアイスバーなど)の7日間平均の販売数と平均気温の関係を調べたところ、販売数は気温の上昇する2~7月に平均気温が15℃を超える頃から伸び、25℃を超えると急増することが分かりました。

鍋のつゆが売れるピークは意外な時期

 アパレル業界では、長靴など雨用の靴の販売数が降水量の多い日に増加するほか、雨の降る日にはシャンプーや食器用洗剤などの日用品の販売数も増加するとされています。

 これは、雨天時に外出を控えて家の片づけを始めると、消耗品に気付いて買いに行くという購買パターンが影響しているようです。

 また、鍋のつゆの販売数は、真冬ではなく気温の下がり幅が大きくなりやすい11月ごろがピークになるなど、観測データと商品の動向を突き合わせて解析してみることで、気象と商品の間にある意外な関係を見出すこともできるのです。

 これらの気象と商品の販売数の関係をもとに、気象庁から発表される「2週間気温予報」や「1か月予報」など、各種の天気予報や気象情報を有効活用することができます。

 例えば、商品の仕入れ量や売り場のレイアウトチェンジのタイミングなど、販促の機会を逃すことなく適切に行うことができるのです。

 ちなみに、「2週間気温予報」は週間天気予報より長い2週間先までのおおよその最高・最低気温を把握できる予報、「1か月予報」は気温や降水量について平年と比較し、「高い(多い)」「平年並み」「低い(少ない)」の3階級に分けて傾向を予想したものです。

気象コンサルティングの重要性

 気象データや気象情報を利用していても、実際の発注数や仕入れのタイミングなどは「気温が上がるから冷たいお蕎麦をいつもより多く仕入れよう」という程度の、経験則や勘に基づくものとなってしまっている企業も多くあります。

 IoTやAIの技術が発展してきた現代では、顧客の属性や商品特性、販売実績、周辺のイベントなど事業ごとに収集された多様なデータと、気象データを掛け合わせたビッグデータを高度に分析することが可能になってきました。

 このような高度な利活用ができれば、勘に頼ってきた仕入れ数などについて量的に適切な予測が可能となり、ひいては、欠品数の減少や人件費の削減など、利益の増加につなげられるのです。

 経験や勘頼みになってしまうのは「利活用事例や利用手法を知らない」「どのようなサービスがあるか知らない」などが主な要因のようです。

 今後は、このような認知不足の解消や、気象との関係がまだ明らかになっていない業界にも、気象情報や気象データの利用でビジネスの可能性を広げられることをアドバイスするサービスが必要だと私は考えています。

 気象とビジネスの両者をつなぐ「気象コンサルティング」サービスです。これにより、新しいビジネスモデルが生まれるなど、社会・経済活動の生産性も向上していくのではないでしょうか。

【参考文献】
気象庁「気象庁委託調査『産業界における気象データの利活用状況に関する調査報告書』(令和2年3月)」
 https://www.data.jma.go.jp/developer/R1_chousa.html
気象庁「過去の気象データ・ダウンロード」
 https://www.data.jma.go.jp/risk/obsdl/
気象庁「スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野における気候リスク評価に関する調査報告書」
 https://www.data.jma.go.jp/risk/pdf/H27sm-cvs_rep.pdf
気象庁「気候リスク管理技術に関する調査(家電流通分野)」   
 https://www.data.jma.go.jp/risk/taio_kaden.html
気象庁「アパレル・ファッション産業における気候リスク評価調査報告書」 
 https://www.data.jma.go.jp/risk/pdf/H25_JAFIC-JMA_report.pdf
気象庁「気象データ高度利用ポータルサイト」
 https://www.data.jma.go.jp/developer/index.html#1
株式会社True Data「鍋物料理の種類別、気温との関係」 
 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20211028
“マーチャンダイジングと季節”常盤勝美(2012).一般社団法人国際環境研究協会「地球環境」vol.17
 http://www.airies.or.jp/attach.php/6a6f75726e616c5f31372d316a706e/save/0/0/17_1-14.pdf

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしの内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

佐々木恭子(ささき・きょうこ)
気象予報士。防災士。合同会社『てんコロ.』代表。早稲田大学第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや高速道路・国道向け、企業向けの予報などを担当。現在は予報業務に加えて、気象予報士資格取得スクールなどを主催・講師を務める。監修に『奇跡の瞬間!空の絶景100選』(宝島社)など。編集協力に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、荒木健太郎著/KADOKAWA)、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著/ダイヤモンド社)などがある。
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