数式が世の中を大きく変えつつある最近の例の一つとして、ここでは人工知能(AI)の話をしましょう。
AIを使った商品は、既にみなさんの身の回りにもあります。よく知られているのは人の音声を認識して音楽や動画再生をしたり家電の操作ができるアレクサやロボット掃除機のルンバ、これまでに学習したデータを使って新しいコンテンツを生み出すことができる「生成AI」という技術で、私たちのいろいろな質問に答えてくれるChatGPTなどです。
アレクサは、人間の言葉による指示に従って動くことができます。たとえば、「アレクサ、行ってきます」というと、アレクサは声を発した人が出かけると判断して家の電気を全て消します。ルンバはロボット掃除機で、障害物をどうやってよけるかを自分で判断しながら上手に掃除をしてくれます。ChatGPTは人間の書き言葉(日本語や英語など)をそのまま理解し、いろいろな質問に答え、指示に応えてくれます。このように、自分で判断して行動する「知能」を持っているのです。人間が人工的に作った知能なので、人工知能と呼ばれています。
冨島 佑允(著)
定価1,980円
(朝日新聞出版)
背後にある数式なんて知らなくても、パソコンやスマホにキーワードさえ入力できれば絵を描くAIやChatGPTを使えるじゃないかと思われるかもしれません。アレクサやルンバだって、操作はいたってシンプルで、当然ながら、ふだん使うのに数式など想像もしないでしょう。
でも、ちょっと待ってください。そうした便利なものを生み出すのは、賢くてアイデアを持っているだれかに任せておいて、自分は生み出されたあとのそれを使うのは、とても簡単です。ただ、社会が発展していくためには、他人まかせにするだけでなく自分でも新しい価値を生み出そうとする力が必要ではないでしょうか。
もちろん数式を使って発明や“革命”を起こすのは簡単ではありません。しかし、便利さを生み出すかくれたしくみを知ろうとする姿勢は、自分たちが主体となり責任を持ってそれを選び、使っているという意識を持つ意味でも大事なことです。そしてその姿勢が新しいアイデアにつながることがあるのです。
※AERA dot.より転載