数学が苦手でも“数式”は読めたほうが良い理由~本質を知るための世界共通語冨島佑允(とみしま・ゆうすけ)/クオンツ、データサイエンティスト。多摩大学大学院客員教授(専攻ファイナンスガバナンス)。1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。23年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(小社)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 数式が世の中を大きく変えつつある最近の例の一つとして、ここでは人工知能(AI)の話をしましょう。

 AIを使った商品は、既にみなさんの身の回りにもあります。よく知られているのは人の音声を認識して音楽や動画再生をしたり家電の操作ができるアレクサやロボット掃除機のルンバ、これまでに学習したデータを使って新しいコンテンツを生み出すことができる「生成AI」という技術で、私たちのいろいろな質問に答えてくれるChatGPTなどです。

 アレクサは、人間の言葉による指示に従って動くことができます。たとえば、「アレクサ、行ってきます」というと、アレクサは声を発した人が出かけると判断して家の電気を全て消します。ルンバはロボット掃除機で、障害物をどうやってよけるかを自分で判断しながら上手に掃除をしてくれます。ChatGPTは人間の書き言葉(日本語や英語など)をそのまま理解し、いろいろな質問に答え、指示に応えてくれます。このように、自分で判断して行動する「知能」を持っているのです。人間が人工的に作った知能なので、人工知能と呼ばれています。

数学が苦手でも“数式”は読めたほうが良い理由~本質を知るための世界共通語『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』
冨島 佑允(著)
定価1,980円
(朝日新聞出版)

 背後にある数式なんて知らなくても、パソコンやスマホにキーワードさえ入力できれば絵を描くAIやChatGPTを使えるじゃないかと思われるかもしれません。アレクサやルンバだって、操作はいたってシンプルで、当然ながら、ふだん使うのに数式など想像もしないでしょう。

 でも、ちょっと待ってください。そうした便利なものを生み出すのは、賢くてアイデアを持っているだれかに任せておいて、自分は生み出されたあとのそれを使うのは、とても簡単です。ただ、社会が発展していくためには、他人まかせにするだけでなく自分でも新しい価値を生み出そうとする力が必要ではないでしょうか。

 もちろん数式を使って発明や“革命”を起こすのは簡単ではありません。しかし、便利さを生み出すかくれたしくみを知ろうとする姿勢は、自分たちが主体となり責任を持ってそれを選び、使っているという意識を持つ意味でも大事なことです。そしてその姿勢が新しいアイデアにつながることがあるのです。

AERA dot.より転載