新たな自分の役割を生み出せるか

 組織による束縛から解放された定年後に問われるのは、自発性を発揮することができるかどうかである。

 与えられた役割をこなすといった姿勢で頑張ってきた人も、これを機に自分でやるべきことを決めて積極的に動くことができればよいが、あくまでも受け身の姿勢しか取れない人は、何をしたらいいか分からず、どうにも気力が湧かず、身動きが取れなくなってしまう。

 会社で働いていた頃は、職務上の役割、それに伴う報酬としての給料、昼間過ごす職場、昼間の人間関係、ときに勤務後の夜の人間関係などが与えられ、日々の過ごし方を自分で考える必要がない。さて今日はどこに行こうか、何をしようか、だれと会おうかなどといったことを考えるまでもなく、行く場所も、すべきことも、会う人も、自動的に決まっている。そうした点に関しては、まさに思考停止状態で過ごしてこられたわけである。

 ところが、定年退職後は、行く場所も、すべきことも、会う人も、すべて自分の自由裁量に任されている。それは、これまでの居場所や役割や人間関係の喪失なわけだが、見方を変えれば、1日の過ごし方を組織から与えられていた状態からの解放であり、自分の手に裁量権を取り戻したとみなすこともできる。

 役割や通う場所の喪失にばかりとらわれていると、解放とか自由の獲得といった側面に目を向ける心の余裕を失いがちだ。でも、明らかに裁量権を取り戻し、自分の好きなように生きることができるようになったのである。