このように、アップルはここ数年で急速に周辺サービス群を拡充している。つまり、iPhone単体で稼ぐ必要がなくなり、iPhoneをエコシステムへの誘引剤として使える環境が整ってたきているということになる。
「すべて旗艦モデル並み性能」はアップルならでは
ただし、スマートフォンで周辺サービスを拡充させようとしているメーカーはアップルだけではない。
たとえば中国のシャオミは、スマホを中心に連携する家電製品を数多く投入し、サービスからも稼げるエコシステムを作ることで、世界で五本の指に入るスマホメーカーへと成長してきた。サムスンもGalaxyスマートフォンにおいて独自のアプリストアやヘルスケアアプリなどを展開している。
ただし、競合するAndroidスマホのメーカーと比べて、アップルには際だった優位点がある。それは「すべての製品が高性能モデル」だということだ。
コモディティ化したスマートフォン市場では「規模の経済」のメリットが効果的に発揮される。年間出荷数が数百万台にとどまる日本のスマートフォンメーカーと、年間2億台のiPhoneを出荷するアップルでは、仮に同じ性能の製品を作ったとしても、1台あたり製造コストでは大きな差が生じるだろう。年間2億台のiPhoneを製造する能力を持つ、巨大なサプライチェーンこそが、アップルの最大の強みとなっているわけだ。
出荷数で勝るサムスンやファーウェイと比べても、アップルには優位性がある。両社の販売するスマホの中で、高性能な旗艦モデルの割合は少数に過ぎないが、アップルが販売するiPhoneの大半は高性能なチップセットを搭載した最新モデルだ。つまり、アップルは「最高性能のチップセットを備えた低価格スマートフォン」を実現しやすい立場にあるといえる。そして、その優位性を最大限に生かしたのが、2020年版のiPhone SEというわけだ。
携帯キャリアにとって悩みは「在庫処分」か
アップルにとってiPhone SEは、新たな戦略のカギとなる機種になるだろう。「高性能なカメラや顔認証は不要だけど、iPhoneを使いたい」というユーザー層にとって、5万円台でも旗艦モデル並み性能なiPhone SEはジャストミートなモデルになるはずだ。
一方で、アップルの製品を扱う携帯電話キャリアにとって、新たなiPhone SEは悩みのタネになるかもしれない。アップルはこれまで、iPhoneのブランド力を生かして、携帯電話キャリアに積極的な納入を促してきた。