また、竹本大臣も会見で、地方自治体と民間との間では紙とはんこによる手続きが残っていることを認めていたが、「官公庁や銀行などの規定産業に提出する書類で、すぐに紙・押印がなくなることはない」と笹原氏。「紙と電子は当面併存することになるだろう」と推測している。

 笹原氏は「契約電子化のために業務プロセスを見直す場合、社内の横断的な業務フローの洗い出しと、紙が必要な書類と電子化できるものの区分けが必要。構築のためには、法的な知識、業務フローの理解、システムの理解の3つの専門性が必要となってくる。これは大きな改革となるため、トップのコミットと、現場を含む全社のコミットの両方がなければ進められない」と話す。

「契約電子化は企業にとって長期にわたり、かつ困難な取り組みになる。したがって、やり遂げるには強い意志が必要だが、実現できれば業務プロセスが全面的に見直されるので、生産性は大きく向上するだろう。今回の熊谷氏や藤田氏ら、大手企業のトップが進んで発言していることは、良い転機になるのではないか」(笹原氏)

契約電子化は今や効率化ではなく
従業員の命を守るための重い課題

 竹本大臣の発言に関連して、Twitterで「この件(電子契約推進)を本気で進めたいのならば、自分たちが盛り上がって気持ち良くなるのではなく、どうすれば相手企業の方々が方針転換を意思決定し、社内プロセスを転換できるか、そこをサポートするのが私たち新しい業界の人間の役割だと思います。」と投稿していたのは、メルカリ会長室 政策企画ディレクターの吉川徳明氏。経産省、日本銀行、内閣官房などで政策を担当した後、ヤフージャパン、メルカリで政策企画に携わり、官民それぞれの事情に明るい人物だ。

 吉川氏は「大企業の場合、トップがデジタル化を進めるぞと号令をかけても、部署や事業所により業務フローは全く違っており、フローの大幅な見直しが必要になる。大きな経営判断が必要だ」と笹原氏と同じく、プロセス見直しのハードルの高さに触れている。

 さらに「社内の業務フロー変更より、社外のやり取りの電子化のほうが問題」と吉川氏。メルカリグループでは、新型コロナウイルス感染拡大の長期化を受け、4月8日の時点で電子署名による契約締結の推進を表明しているが、「契約の電子化は相手あっての話。プロセスを受け入れてくれるかどうかが問題」と、一筋縄ではいかない状況について説明する。

「メルカリでも4月8日以降、取引先とコミュニケーションを取っているが『すぐには移行できません』というところも、もちろん多い。先方も全体的なフローの見直しを迫られるので、当然だ。また取引先で窓口となっている人にとっては、前例もなく、相談する相手が自分の上長でよいのかどうかさえ分からない、ということも多いのではないか」(吉川氏)