GMOでは熊谷氏の判断から24時間で業務の棚卸しを実施。必要ない捺印業務の即座廃止と、すぐになくせない業務についても期限を付けて廃止に向けて手続きを進めているという。

契約電子化には企業トップと
社員全体の両方のコミットが必要

 竹本IT担当大臣による「政府としては行政手続きのデジタル化を進めている。民は民で話し合ってもらうしかない」という趣旨の発言について、契約書の電子化に詳しい事業者たちはどう見ているのか。電子契約サービス「クラウドサイン」を提供する、弁護士ドットコム取締役・クラウドサイン事業部長の橘大地氏は一定の理解を示す。

「(大臣の発言は)行政のデジタルガバメント化と民間同士のはんこのデジタル化を(説明のために)はっきり区別しようとしたもの。民間同士のはんこのデジタル化は民間企業が電子契約を採用するかどうかの判断であり、その点での認識のそごはない」(橘氏)

  その上で「もっとも、行政からテレワーク化推進のため、民間同士のデジタル化に電子契約という手段があることを後押ししていただけるとありがたい」と橘氏は述べている。

 また今回の熊谷氏や藤田氏の反応については「企業取引の片方がはんこを利用し続ける限り、電子契約採用企業も紙とはんこで契約する必要が生じていた。GMOインターネットグループや、サイバーエージェントのような影響力ある企業の代表が、自らはんこを廃止することを発信してくださることは、はんこのデジタル化の後押しとなる」と橘氏は歓迎する。

 橘氏は今回の各社の動きに対して、日本では早い段階の2015年から電子契約サービスを運営し、経産省のグレーゾーン解消制度を使って電子契約の適法性を明確にする活動にも取り組んできた立場から「一過性のムーブメントとならないよう、(今後もデジタル化に必要な情報を)継続的に発信し続けたいと考えている」とコメントしている。

電子契約をはばむ2つの障壁
業務プロセスの変更と行政や銀行の対応

 電子契約プラットフォームを提供し、企業の契約書電子化を支援するスタートアップ、Holmes代表取締役CEOの笹原健太氏は「契約業務や関連書類の電子化を進めるには2つの障壁がある」と指摘する。1つは業務プロセス変更の難しさ、もう1つは行政および銀行などの規定産業が要請する書類の電子化が進んでいないことだ。

「はんこの押印は契約電子化の中でごく一部の作業に過ぎない」という笹原氏は、「押印・紙を前提としたプロセスの変更のためには、企業の押印規定や定款などを見直すことになる。株主総会の決議など、会社法上の手続きを伴う部分もある。また部署をまたいだ横断的なプロセスの変更が必要で、業務プロセスを一から設計し直すことになるだろう」と語る。