現在、こうしたスタートアップスタジオは、世界各地に数多く存在しており、すでに多くのスタートアップを育ててきている。なかでも有名なのが、米ニューヨークに拠点を持つBetaworks(ベータワークス)。2008年の設立以来、短縮URLサービスのBitlyやアニメーションGIF検索サービスのGIPHYなど、数多くのスタートアップを生み出してきた実績を持っているのだ。
そんなスタートアップをめぐる新しいムーブメントが、ここ数年、日本でも広がりつつあるといわれている。
いまのところ、スタートアップスタジオの国内での大きな成功事例は、残念ながら見あたらないのが現状。しかしそれでも、大小含めると数多くのスタートアップスタジオが存在しているのは確かだ。博報堂グループの「quantum(クオンタム)」や、ガンホー・オンライン・エンターテイメント創業者の孫泰蔵氏が創業した「Mistletoe(ミスルトゥ)」、サイバーエージェント元取締役でWiL共同創業者でもある西條晋一氏が立ち上げた「XTech(クロステック)」などがその代表格として知られている。
新しいスタートアップ支援のかたちとして注目されるなか、今後、スタートアップスタジオは果たして日本でも定着していくのだろうか。
SIerがスタートアップスタジオに挑戦するワケ
今年6月、Sun Asterisk(サン・アスタリスク:以後サン)が、新しくスタートアップスタジオ事業を開始した。同社はベトナムの拠点を含め1000人規模のエンジニアを擁し、ソフトウェアの受託開発を手がけるSIerであると同時に、スタートアップに対する投資事業にも積極的に取り組んできていた。
そんなサンがスタートアップスタジオに事業として取り組むのはなぜか。同事業を担当する船木大郎氏はこう話す。
「もともとサンのパートナーはスタートアップが多く、われわれの豊富なリソースを活用することで一気に製品やサービスをスケールできる点を、最大の武器にしてきました。その経験を生かしていけば、将来的にパートナーになり得るスタートアップをシード期から育てていくことができるのではないかと考えたわけです」
実際に、これまでサンが関わってきたスタートアップやプロダクトは300件以上。なかにはマネーフォワードやユーザベースなど、パートナーとして開発に携わった後にIPOを果たした企業もある。ほとんどはスタートアップの成長期からのパートナーシップだが「スタートアップのそれぞれのステージでどんな課題が発生するか、われわれは数々の経験から熟知している。それが強みになっている」とサン執行役員の梅田琢也氏はこう話す。