少年時代からの「環境」「衛生」への思いをつなぎ起業
島本氏がAnyTechを立ち上げ、流体を分析・判定するAIの提供に至った背景には「環境」「衛生」というキーワードがある。
島本氏は埼玉県の出身。小学生だった平成10年前後のころは、県内の三富地区に産業廃棄物焼却施設が集中立地したことから、近隣でダイオキシン類による影響の有無が大きな社会問題となっていた。周辺地域では学校の水や給食で出される野菜の安全性に対して不安の声が挙がる日々。島本氏は「今の日本でこんなことがあるのかと衝撃で、かなり記憶に残っている」と振り返る。これが、島本氏が環境や衛生に興味を持つ原体験となった。
その後、早稲田大学に進学した島本氏は、学会で中国を訪問した際に、外食先でから揚げを食べて気分が悪くなり、「地溝油」の存在を知った。地溝油とは下水から回収した油を精製して、再生食用油として販売されているもの。もちろん安全性には問題があり、使用は重罪として禁じられているが、中国では屋台や格安レストランなどに広く出回っていて社会問題化している。ここで環境・衛生についてあらためて認識した島本氏は、現在提供しているDeepLiquidのベースとなる、流体の画像処理に関する研究に大学院で取り組むようになる。
島本氏は、この技術を何とか社会課題と結び付けられないかと考え、大手企業との共同研究なども行っていた。だが企業の動きの遅さもあり、またAI技術が現在ほどは成熟していなかったこともあって成果が出せず、この時は社会実装には至らなかった。
こうして一度はソフトウェアエンジニアとして就職した島本氏。だが、課題解決への思いは強く、研究の社会実装を諦めきれずにいた。そこで、地溝油を検査するペン型のハードウェア「毒油検査デバイス」を個人で開発し、ビジネスコンテストに出場する。インターネットサービスがもてはやされる風潮もあり、ハードウェアで評価を得るのはハードルが高かったが、審査員だったユーグレナ取締役副社長の永田暁彦氏から高い評価を受け、優勝をつかんだ。これをきっかけに、島本氏は起業を志すようになった。
しかし、デバイスを必要とするユーザーが見込めるのは中国だ。中国で外国人が起業することは難しく、またハードウェアデバイスは潤沢な開発費用が必要となる。そこで島本氏は自身の研究へ立ち返り、エンジニア時代に習得したAI技術と流体力学とを組み合わせて、分析ソリューションの実用化を目指すことにした。