AnyTechの設立は2015年のこと。最初は水処理施設の異常検知に特化したシステムとしてDeepLiquidを開発し、大手企業へ導入するところからスタートした。島本氏は「大手導入の実績が認められ、その後は流体が関わるほかの業種へもどんどん進出することができた」と話す。

グローバルでも例のない「流体×AI」ソリューションが武器

 DeepLiquidのAIの独自性は、液体や流動体など、運動状態にある変動しているものに特化したアルゴリズムだ。動いているものを判定するためには、動画での分析が必要となる。例えばチョコレートなら粘り気が製品の仕上がり具合を判断するカギになるのだが、人間の眼は溶けたチョコレートの様子を静止画で判断しているわけではなく、動画として見て判断している。同じことを動画の機械学習とカメラの眼で実現しようというのがこのAIの特徴だ。DeepLiquidは液体・流動体であれば、各種のパラメータを変えて同じアルゴリズムを利用できるという。

水処理施設での異常検知例 画像提供:AnyTech水処理施設での異常検知例 画像提供:AnyTech
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 画像認識の分野では、世界的にも静止画を使った分析が主流だ。「連続した動画を分析するAIソリューションは例があまりなく、あったとしても人間の動きを判断するものがほとんど。これは人の動きを判定しようというニーズが多いことに加えて、データが入手しやすいことが理由だろう」と島本氏は言う。

 物体の動きは人体の動きとは異なる。また、動画を分析するには大量の学習データが必要だが、液体を扱う工場のデータはなかなか入手しづらい。だがAnyTechはすでに大手企業への導入例があたるめ、豊富なデータを扱えると島本氏はいう。

「海外にも“流体×AI”のソリューションは例がない」という島本氏。AnyTechは起業初期のAIスタートアップを支援する香港発のアクセラレーター・Zeroth(ゼロス)からアドバイスや資金の提供を受けているが、彼らからも「グローバルで事例がない」と言われた。DeepLiquidの顧客からも、「同様のサービスは見たことがない」と評価されていると説明する。

実用レベルの先端技術を評価、目指す世界観も合った買収に

 現在、化学センサーやバイオセンサーが液体の異常検知に使われている現場では、冒頭で述べた時間や人のコストの問題に加えて、定期的なセンサーの清浄や故障への対応といった課題も抱えている。島本氏は「センサーを使った異常検知に使われている予算は、グローバルで6兆円。これを液体に直接触れず、広い範囲を監視できるカメラとAIに置き換えることで、このうちの20%に当たる1.2兆円のシェアを取りにいくつもりだ」と語る。