蚕は栄養面でも優れた点が多い。タンパク質の含有量は100gあたり10~17g。これに対して牛は19~26g、コオロギは9~25g、バッタは35~48g(出典:FAO報告書)。ほかのタンパク質補給源と比較して圧倒的に多い含有量を誇るわけではない。だが、血糖値を下げる効果を持つセリシンを含有するほか、抗酸化作用を持つ成分も豊富だ。
環境のためではなく、『普段から食べたい』と思ってほしい
環境への負担を減らし、栄養面でも優れた蚕だが、それでも多くの人にとっては実際に食べてみるまでのハードルは高いだろう。エリー は、これからどのようにして蚕を普及させるつもりなのか。「代替肉や昆虫食は環境やビーガンなどとセットで語れることが多いですが、こうした利他的なメリットだけでは多くの人に手に取ってもらうのは難しいでしょう」と梶栗氏は話す。
「一番大切なのは、普段使いの食材として『食べたい』と思ってもらうことではないでしょうか。普段のレシピに組み込みやすく、健康にも良ければ、環境へのアピールをしなくても自ずと蚕に興味を持つはず。シルクフードラボで一流のシェフとともにバーガーやスープ、ケーキなど多様なメニューを用意したのも、まず蚕を使った料理が美味しいこと、そしていろんなレシピと相性が良いことを知ってもらうためです」(梶栗氏)
今後もシルクフードラボでは餃子やピザ、ドリンクなど多様なメニューを提供する予定だ。シェフとの連携で「栄養価の高いちょっと高級な料理」として人気を獲得するつもりだという。外食での提供に限定するつもりはなく、今年中にスーパーマーケットなどでの一般流通も目指すなど多面的な展開を予定しているようだ。
「まだ海外に比べれば日本に昆虫食のトレンドはありませんが、いずれ人気が出てくるはず。その時、日本人と深い関わりがあって、アジアでも古くから食べられてきた蚕は、選択肢として非常に有力です。現状では日本の食料自給率は高くないですが、養蚕業という日本の強みを上手く発揮することで、将来的に世界のタンパク質供給を支える国になれれば思っています」(梶栗氏)