「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。

ブランドを特別なものにするのは「感情」であるPhoto: Adobe Stock

ブランドの価値は機能だけではない

 ブランドの価値というのは、機能だけのものではありません。「コカ・コーラ」は飲むと爽やかになり、おいしいわけですが、「コカ・コーラ」というブランドが持っているイメージは、それだけではありません。

 ハッピーだったり、みんなが集まるところで盛り上がる、だったり、セレブレーション、だったり、前向きな感情だったりする。「コカ・コーラ」のブランド価値は、おいしいという左脳で感じる部分以外に、右脳で感じる感情的な部分があるのです。

 ファンクショナル・ベネフィットと呼ばれる機能的な便益だけではなく、エモーショナル・ベネフィットと呼ばれる感情的な便益が求められるのです。

「ジョージア」もそうです。缶コーヒーの味が仮に競合とまったく同じだったとしても、「ジョージア」にはブランドの持っている感情的なイメージがあるでしょう。それが薄まっていたからこそ、あらためて見つめ直すことが必要でした。

 そこから「世界は誰かの仕事でできている。」というキャンペーンが生まれたのです。「あ、ジョージアというのは、一人ひとりがやっていることを認めてくれるんだ」「みんなの努力のサポートをしてくれるんだ」という感情につながり、ブランドイメージをはっきりさせることができた。

 さまざまな世界的ブランドをイメージするといいと思います。アップル、ディズニー、ナイキ、ハーレーダビッドソン……。それぞれ機能としても素晴らしいのですが、同時にそれだけではないイメージがあるはずです。感情的なつながりを持っているのです。

 それはブランドの持つ哲学だったり、願いだったり、歴史だったりする。そういうものをどう作っていくか、がマーケティングの腕の見せ所です。そしてそれは、マーケティングのもっとも面白いところだったりもします。

 加えて、感情的なつながりを持つことは、ブランドだけではありません。人のマネジメントでも同様です。「北風と太陽」のように、厳しさも必要だし、フォローも必要になる。うまくいかないときに、怒ったりしない。失敗はすべて責任を取る、という意識を持つ。

 直属の部下の家族の状況もケアすることを私は心がけました。感情的なつながりを持つために部下に何ができるか。いいマネジメントをするためには、それを意識してみることです。

ブランドを特別なものにするのは「感情」である

和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。