記者が取材に訪れた際、写真を撮影したいといえば、表情やポーズまで一緒に考えてくれる。空調の様子がおかしいと思えば、すぐに担当社員に様子を見るように指示を出す。その実は剛腕とは真逆の人と見た。
そうすると洋明という人、経営者としての手腕や、人としての考え方が実によくわかるのだ。酒は一切やらない。その理由を洋明はよく通る声ながらも静かな口調でこう語った。
「酒呑みは、ずっと同じ話ばかりするでしょ?嫌なんですよ」
なるほど、若き日に取引先からの接待でクラブに飲みに行った際のこと、グラスを傾けることもなく、ただ延々と黙している様子にホステスが業を煮やしたというのも頷けよう。
もちろん、ギャンブルや女性の類とも縁がない。1日24時間、1年365日、ずっと経営のこと以外、頭にないようだ。
中学中退で引きこもった
「元神童」の葛藤
それにしても代表取締役へと就任して13年という、決して長くもない時間で、すでに傾いていた経営を立て直し、冒頭でもお伝えした「奨学金肩代わり」「ひきこもり採用」のみならず、近頃志望者が減りつつある営業職の将来を憂いて、同業他者にも声を掛け、「営業トーク大会」を開催し、営業職に就く人のポテンシャルを引き上げる活動も行うまでになった。
ときに一企業の枠を超えた社会貢献も積極的に行っている企業の経営者であるにもかかわらず、なぜか洋明の経歴はほとんど表に出ていない。
これについて記者が問うと、「企業さんの集まりとか、呑みの会とか、そういうの一切出ていないんですよ」と、関学グリークラブ出身らしいよく通る声で語った後、こう付け加えた。
「私ね、中学校中退なんですよ――」
小学校時代、神童として知られた洋明少年は、全国でも屈指の進学校、灘中学校合格間
違いなしと言われていた。灘中高から東大へ――。祖父の忠一が、戦前の世にあって、現在の東大よりも難しいといわれていた旧海軍兵学校卒、父も東大を受験したという。皆、頭脳明晰の家系なのだろう。洋明も最終的には東大に入ることが既定路線と思っていた。