品質や納期と並ぶ価値として
「脱炭素」が値上げ交渉の武器になる

 コロナ禍を経て、日本は新しい時代へ突入しています。

 中小企業を取り巻く環境も、これまでの数十年間の常識がまったく通用しない新時代の基準に変わりつつあります。新時代の日本経済において、特に2つの大きな環境変化があります。1つはデフレ経済からインフレ経済への転換です。もう1つが労働人口の減少です。

 インフレ経済というのはモノよりも貨幣のほうが多くなり、貨幣の価値が下がる、つまりモノの供給が不足している状態です。供給が不足しているインフレ経済下で人手不足が起こりますから、儲かっている会社は供給能力を拡大するため、これまで以上に賃金を高くして人材を確保しようとします。労働者側もインフレにより貨幣の価値が下がり、実質賃金が低下していますから、より高い賃金を求めてどんどん転職しはじめています。

 皆さんがCMでよく目にする「ビズリーチ」の広告を見れば、この流れは明確でしょう。結果、これまでに経験したことのない労働者不足と賃金高騰が予測されます。

 人手不足と賃金高騰時代を生き抜く企業に必要なことは、商品単価の値上げです。これまで30年間のデフレ時代では、コストカットに次ぐコストカットで安く売ることが正義でした。しかし時代は大転換したのです。商品の値上げ以外の選択肢はあり得ません。

 しかし、まったく同じ商品のまま、販売単価のみを上げることは困難を極めます。品質が良くなるとか、納期が早くなるなど、値上げする理由があるほうが値上げは順調に進みます。

 私は、この「脱炭素」が品質や納期と並ぶ価値として値上げの根拠になると考えています。つまり「脱炭素」という価値を通じて商品の値上げ交渉を有利に進めた企業が、新時代の賃金高騰に対応して優秀な労働者を確保し、生産能力を維持することで高い競争力を得ることができると思っています。

 逆に「脱炭素」の取り組みに遅れた企業は、価格競争の世界から抜け出すことができず、高騰した賃金を負担できないことで人員不在になり、生産できなくなって廃業するか、付加価値に見合わない賃金を払い続けて赤字になって倒産するかのどちらかになります。

「脱炭素」に取り組めば、生き残れるチャンスが広がるのです。

「地球を守る」という意識の人々に、反論できますか?

 環境問題に消極的な企業は、こうした人々から選択されなくなります。

 生き残るため、選ばれ続けるために「脱炭素」に取り組むのです。