「自力整体」とは、整体プロの技法を自分におこなう人気メソッドです。「久しぶりにぐっすり眠れた」「10年間苦しんできた慢性痛から解放された」など、多くの声が寄せられています。今回、「被災中にできるケアについて、震災を経験した整体プロの視点から伝えたい」と『すぐできる自力整体』の著者で、自力整体指導者の矢上真理恵さんから編集部へご連絡をいただきました。矢上さんは今から29年前、阪神淡路大震災で兵庫県西宮市の自宅が全壊。矢上さんのお父様で「自力整体」の生みの親でもある矢上裕さん(70歳、整体師・整体治療家)は当時、被災中にできるケアを指導した経験があります。今回の能登半島地震では、石川県珠洲市出身のお母様のご親戚が被災。そこで今回、被災された方、そしてニュースを見て心配や不安を募らせている方へ、自力整体の視点と震災経験の視点から、「不眠」「冷え」「エコノミークラス症候群の予防」「ストレス」「心の整え方」など、今すぐおすすめしたいことを前編・後編に分けて矢上裕さん・真理恵さんにうかがいました。
監修:矢上 裕 矢上予防医学研究所所長、自力整体考案者、鍼灸師・整体治療家
(写真/榊智朗 構成/依田則子)

震災を経験した整体プロが教えたい「不眠・冷え・血流改善・不安」解消に役立つ「7つの知恵」【後編】

不安やストレスを軽減するには?

――今、被災されたみなさんは、寒さや不安で眠れない夜を過ごされていると思います。まずは、今すぐできる「不安やストレスを軽減する方法」を教えてくださいますか?

矢上真理恵(以下「真理恵」):私も避難所生活を経験した経験があります。寒さや緊張で熟睡できないのはもちろんのこと、ストレスや不安で心が押しつぶされそうになりました。現在、能登半島のみなさんも、同じ苦しみを抱えていると思うと、胸がしめつけられます。ニュースを見ている方たちも、心を痛めておられると思います。

矢上裕(以下「裕」):被災されたみなさん、また、ニュースを見ているみなさんもおそらく、不安や恐怖感で体が固まっているはずです。前回もお話ししたように、まずは「呼吸法」で体をゆるめるといいでしょう。今、みなさんは緊張状態で、呼吸が浅くなってしまっていると思います。深い呼吸ができれば体に酸素がいきわたり、血行もよくなります。深呼吸でも十分ですが、できれば、肺を上手に使えて、たくさんの酸素を取り入れることができる「うつぶせ寝」をオススメします。副交感神経が優位になり、リラックスできて熟睡できますよ。

張り詰めた心をリラックスさせる「膻中(だんちゅう)のツボ押し」

――とにかく「呼吸法」で体をゆるめることが大事ですね。他にも手軽にできる、ストレスや不眠、冷え、血流改善法があれば教えてください。

真理恵:オススメは7つほどあります。もちろんすべてやらなくてもいいですよ。体調に合わせて選んでみてください。

 1つ目は、「膻中(だんちゅう)のツボ押し」です。胸の真ん中を指圧するだけなのでカンタンです。張り詰めた心をリラックスさせる効果があります。気分の高ぶりを鎮める効果があるので、緊張、不安、パニック障害の症状がある方にも有効です。

【膻中(だんちゅう)のツボの位置】
「膻中」は、胸の前側、左右の乳頭を結んだ線の中央にあります(下の画像参照)。

震災を経験した整体プロが教えたい「不眠・冷え・血流改善・不安」解消に役立つ「7つの知恵」【後編】

◎「膻中(だんちゅう)のツボ押し」のワーク

震災を経験した整体プロが教えたい「不眠・冷え・血流改善・不安」解消に役立つ「7つの知恵」【後編】

【手順1】ふ~っと息を吐きながら、「膻中のツボ」を中指で軽く指圧します。

同時に「30秒呼吸法」をおこなうと、よりリラックスできる

真理恵:2つ目は、「膻中のツボ押し」と同時におこなうとよりリラックスできる「30秒呼吸法」です。自律神経の乱れを整えてくれます。副交感神経が優位になって、不眠解消にも役立ちます。腹式呼吸で息を10秒吸って、10秒止めて、10秒かけて吐く、というシンプルな方法です。

 このあと紹介する画像はあおむけでおこなっていますが、座りながら、または立ちながらでもOK。「膻中のツボ」を軽く押しながら、おこなってみてください。

◎「30秒呼吸法」のワーク

震災を経験した整体プロが教えたい「不眠・冷え・血流改善・不安」解消に役立つ「7つの知恵」【後編】

【手順1】あおむけになり(座位・立位でもOK)、お腹に手をそえ(または「膻中のツボ」を指圧しながら)、10秒間、鼻から息を吸って、お腹をふくらませる
※息を吸う時間は7秒くらいでもOK。苦しい時はムリせず、自分のペースでおこなう

【手順2】そのまま10秒間息を止め、お腹のふくらみをキープ
※お腹をポン!とたたいて、ふくらみを確認するのもオススメ
※息を止める時間は7秒くらいでもOK。苦しい時はムリせず、自分のペースでおこなう

【手順3】10秒かけて、ゆっくり息を吐きながら、腰の力を抜いていく
※息を吐く時は、口・鼻どちらでもOK
※お腹がぺたんこになるまで、息を吐ききる

――「30秒呼吸法」は何セットおこなうとよいでしょうか?

真理恵:2セットおこなえば、十分リラックスできると思いますが、心身の状態に合わせて長めにおこなってもよいです。とくに寝る前におこなえば、熟睡に役立ちます。

矢上 真理恵(やがみ・まりえ)
矢上予防医学研究所ディレクター
1984年、兵庫県生まれ。高校卒業後単身渡米、芸術大学プラット・インスティテュートで衣装デザインを学び、ニューヨークにて独立。成功を夢見みて、徹夜は当たり前、寝るのはソファの上といった多忙な生活を続けた結果、心身のバランスをくずし動けなくなる。そのとき、父・矢上裕が考案し約15,000名が実践している「自力整体」を本格的に学び、心身の健康を取り戻し、その魅力を再発見。その後、自力整体ナビゲーターとして、カナダ、ヨーロッパ各地、イスラエルにて、クラスとワークショップを開催。さらに英国の名門セントラル・セント・マーチンズ大学院で「身体」をより体系的に学び、2019年に帰国。現在、国内外の人たちに自力整体を伝えながら、女性のための予防医学をライフワークにしている。著書に、『すごい自力整体』(ダイヤモンド社)がある。

監修者:矢上 裕(やがみ・ゆう)
矢上予防医学研究所所長、自力整体考案者、鍼灸師・整体治療家
1953年、鹿児島県生まれ。関西学院大学在学中の2年生のとき、予防医学の重要性に目覚め、東洋医学を学ぶため大学を中退。鍼灸師・整体治療家として活躍するかたわら、効果の高い施術を自分でできるように研究・改良を重ね「自力整体」を完成。兵庫県西宮市で教室を開講、書籍の出版やメディア出演などで注目され、全国から不調を抱える人々が続々と訪れるようになる。現在約500名の指導者のもと、約15,000名が学んでいる。著書に『自力整体の真髄』『はじめての自力整体』(ともに新星出版社)など多数。遠隔地の人のために、オンライン授業と通信教育もおこなう。 写真/榊智朗