血流を改善してエコノミークラス症候群を予防する「エアー縄跳び」

――エコノミークラス症候群や冷えを予防する自力整体も教えてくださいますか?

矢上裕(以下「裕」):エコノミークラス症候群は、ずっと座っていると発症するので、なるべくこまめに立ち上がったほうがいいですね。

 血液をしっかりめぐらせるには、ふくらはぎの筋肉を動かすのがいいですよ。3つ目のオススメは、壁に背中をつけて立ち、足をトントン数十回上げ下げする運動です。自力整体ではこれを「エアー縄跳び」(画像参照)と呼んでいます。

震災を経験した整体プロが教えたい「不眠・冷え・血流改善・不安」解消に役立つ「7つの知恵」【後編】

◎エアー縄跳び

【手順】壁を背にして、縄跳びのリズムで、かかとを数十回トントンと上げ下げしましょう(回数は体力に合わせる)。ふくらはぎにキュッと力を入れましょう。

「貧乏ゆすり」も血行改善に効く

――カンタンでいいですね。でも、避難所生活で立ち上がって実践すると目立ってイヤだなという方や、ご高齢の方で立ち上がるのが困難な方は、どうしたらよいでしょうか?

矢上裕(以下「裕」):ご高齢の方で、「エアー縄跳び」が難しい方は、「貧乏ゆすり」でも血行改善できますよ。健康な方で、ちょっと目立ちたくない方にも、「貧乏ゆすり」はオススメです。

時に「ネガティブな情報から自分を切り離す」のは大事

――被災された方、またそのニュースを見ている方が、心身のバランスをくずさないために、何か気をつけることはありますか?

真理恵:私は心理カウンセラーではないので、自身の経験からお伝えすると、4つ目にオススメしたいのは、今はせめて「SNS上のネガティブな情報から自分を切り離すことは大事」だと思います。

 英語では「ドゥームスクローリング(doom scrolling)」といって、SNSのネガティブなニュースばかりを追いかけてスクロールしてしまい、それに依存してしまう状態を言います。自分とは関係ないニュースだとしても、ネガティブな情報に触れて、心と体を病んでしまう。

 悪い情報を取り入れようとするのは、人間の防御反応だと言われていますよね。たとえば、原始時代は猛獣などが襲ってくる情報を噂で聞いたら、より情報を収集して自分の身を守らなくては、と思ってしまうのが本能です。その本能が残っているから、ネガティブな情報を追ってしまう。そして精神的に病んでしまう。

 ですから、今のような環境下では、なるべくSNSの様々なネガティブ情報から自分を切り離すことは大事だと感じています。

心身のバランスを保つ「歩く瞑想~マインドフルネス・ウォーキング」のススメ

真理恵:たとえば、私がニューヨークで暮らしていた時、東日本大震災が起きました。私自身は何千マイルも離れた場所にいるのにもかかわらず、毎日そのニュースを追って、心を病んでしまいました。自分が遠くから何もできないことに罪悪感を感じたり、過去の震災体験を思い出し、恐怖や悲しみを感じていたのだと思います。

当時、仕事をしながら学校にも通っていたのですが、何も手につかなくなって、授業中に泣き出したりしました。実際自分のいる場では何も起きていないのに。妄想力と想像力を過剰に働かせて、心身のバランスをくずしてしまったのです。

――今、まさに同じ状況の方は多いと思います。冷静さを取り戻すには、どうしたらよいでしょうか。

真理恵:私が助けられたのが、「歩く瞑想」です。これが5つ目のオススメです。「マインドフルネス・ウォーキング」とも言われていますね。これはイギリス人の禅寺のお坊さんに教えてもらいました。スマホなどの情報は遮断して、何も持たずに外に出て散歩するのです。

 雑念が浮かんできても、頭で考えることはやめて、今、歩いている体の感覚に集中しました。たとえば、地面に着地する足の裏を感じたり、肌に風を感じたり。体の感覚にできるだけ集中して、体を動かすのです。

――慣れないうちは不安や雑念が浮かんできそうです。何かコツはありますか?

真理恵:たとえば歩きながら、呼吸と歩数を合わせて歩いてみたり、今自分の体がどうなっているのかな、と心の中で実況中継しながら歩くと、いつの間にか不安や雑念が消えています。「今、かかとが着いて、足の親指が地面に着きました」とか。体を使って感覚を受け取るみたいなイメージです。

 ネガティブな妄想・想像が入ってきたら、自分の体の感覚に意識を向けて「自分に戻る」。これを日常的にやっていたら、心がラクになりました。

――じっと座っておこなう瞑想よりも、カンタンにできそうな気がします。

真理恵:体を動かさないでいると、なかなか集中できませんが、歩きまわると、その歩くことに意識を向けることで、体の内側に意識が向きやすいんですね。

 これを習慣にしていくと、世の中のいろいろな情報から離れて、「今、ここにいる自分」に帰ってくることができます。

歩きまわるのが難しい方は「マインドフルネス・イーティング」を

――歩きまわるのが困難な方、立ち上がることが難しいご高齢の方もできるマインドフルネスはありますか?

真理恵:たとえば、食べながら瞑想する「マインドフルネス・イーティング」というのがあります。自分が何を食べているのか、舌で感じて、どういう味なのか、色はどうなのかとか。食べることに意識を向けることで、心を悩ませる出来事を、一時的に保留にできます。

 これらのような練習をしていけば、冷静さを取り戻すことができるのではないかと、実体験で感じています。

寝つけない方へのアドバイス

――睡眠不足から心身のバランスをくずされる方も多いと思います。鍼灸師・整体治療家でもある裕先生の視点から、アドバイスをお願いします。

裕:避難所がもし体育館のような広い空間でしたら十分に暖はとれないと思いますし、夜中、何回も起きてしまう方もいるでしょう。そもそも人間は恐怖と隣あわせの状況の中では、なかなか熟睡できないと思います。

 対処法ではないのですが、6つ目のオススメは、「日中、じっと座っていないで、今いる場所から立ち上がること」です。そして、「屋外へ出て、体を動かす」

 人間というものは、疲れないと深く眠れないんです。ですから日中、体を疲れさせてあげることが、一番の眠り薬なのです。

 私の経験では、避難所生活でしたら、誰かに貴重品を見てもらいながら、ちょっとホウキでも借りて、避難所のスミでも掃除しようかとか、毛布が埃っぽくなってきたから、外に出てパタパタはたいて毛布を清潔にしてみるなどをやっていました。

 ずっと座ったままでいると、だんだん体がおかしくなってくるんですね。だから、自分でできることがないか探して、体を動かしたり、人に声をかけてみたりするんです。

 私の場合は、自転車に乗って生徒さんの家をまわりました。そんなふうに、何かをやっていること自体が、精神的な健康に繋がりましたね。

 何か見つけて労働をすると体は疲れて、夜はぐっすり眠れると思います。眠りというのは、労働のご褒美ですから。

・日中、座ってじっとしていないで、今いる場所から立ち上がる
・そして、屋外に出て体を動かす

 寝つけない方はこの2つを心がけてみてください。もちろん不安はあると思いますが、健康はキープできると思います。

毎朝、太陽の光を浴びると16時間後には、自然に眠たくなる

裕:「毎朝、太陽の光を浴びる」ことです。これが7つ目のオススメですね。朝の光を浴びれば、夜になれば自然に眠たくなります。人間の体温というのは、太陽の光を浴びて上がったり、下がったりするものですから、ずっと屋内にいてはダメなんです。

 朝の光を浴びるのがいいのは、約16時間後に、メラトニンといって眠くなる物質が分泌されると言われているんですね。私は毎朝7時半には外に出て、太陽を浴びるルーティーンがあります。そうすると約16時間後の23時くらいに、自然に眠くたくなるんです。結局、毎日、同じことを繰り返すルーティーンがある人が、心身ともに強いと感じています。

――災害時は、平常時と同じようなルーティーンは難しそうですが。

裕:もちろん、やれる範囲でよいと思います。たとえば、もし避難所生活だとしても、毎朝ジョギング習慣のある人は、軽く近所を走ってみる。そんな程度でいいんです。

真理恵:困難な時期だからこそ、自律神経を乱さないために、いつもと同じルーティーンを継続できたら、心身ともに健康になれると感じています。 ムリのない範囲で参考にしてみてください。

――貴重なお話をありがとうございました!

『すぐできる自力整体』では、この他にも、整体プロの技法を使って、コリや痛み、ゆがみを解消するワークを多数掲載しています(★35分の動画も収録)。