40年の長い勤めを果たして定年退職したシニアも、「人生100年時代」にあってはまだまだ先が長い。心も体も健康を維持しながら第二の人生を楽しむにはどうすればいいか、誰しも気になるところだ。大手シンクタンク野村総合研究所の研究員が、25年間にわたって1万人を対象に実施している調査結果をもとに分析する。本稿は、林 裕之『データで読み解く世代論』(中央経済グループパブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。
「人生100年時代」に健康寿命を
伸ばすには社会的な交流が不可欠
2016年に出版されたロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン、アンドリュー・スコットによる著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)において、先進国の寿命長期化によって「人生100年時代」が到来するとし、100年間生きることを前提とした人生設計の必要性が論じられた。
首相官邸においても、「人生100年時代構想会議」が設置され、人生100年時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインが検討されているように、長寿化するシニアの生活を維持するための対策が求められている。
シニアが活力ある生活を維持するためには、いわゆる健康寿命を伸ばすことが重要である。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であるとWHO(世界保健機構)では定義されているが、厚生労働省の「健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書」(2019年3月)では、「健康寿命とは単に身体的要素に止まらず、精神的要素・社会的要素も一定程度広く、包括的に表していると考えられる」と記載されているように、身体的な健康維持だけでなく、精神的・社会的な健康維持も重要な要素であり、その1つが社会的な交流を持ち続けることにある。
筆者が所属するNRI(野村総合研究所)では、過去25年にわたって同一設問・項目の「生活者1万人アンケート調査」を実施しており、日ごろの人との付き合いとして、「週1回以上、会話や連絡をとる人」について聴取している。
その中で、地域・隣近所の人や、趣味や習い事などを通じて知り合った友人など、家族・親族以外の人とコミュニケーションをとっている人を「社会的交流あり」と定義すると、社会的交流のあるシニアの方が、生活満足度が高いという結果が得られている。
社会的交流が少なくなることで、行動全般的に消極的になり、趣味や余暇活動、消費行動にも影響を及ぼし、結果として生活満足度の低下へとつながると考えられる。社会的な交流をもつことが、シニアの生活を充実させる要素として大きいと想定される。
団塊世代(NRI調査では、1946~1950年生まれを指す)やポスト団塊世代(同、1951~1959年生まれ)が週1回以上家族や親族以外の人と社会的な交流をする対象としては、「地域・隣近所の人」がトップにきており、団塊世代の55%、ポスト団塊世代の42%にもおよぶ。
さらに注目すべきは、団塊世代の27%、ポスト団塊世代の33%が「会社・仕事を通じて知り合った人」を挙げたことである。