「中国と戦うこと」に疑問を持ち始めた若者層

 転換点となったのは2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の訪問を台湾が受け入れたことだった。蔡氏はペロシ氏との会談で「ペロシ議長は台湾の最も揺るぎない友人」とし友好関係を強調した。

 その結果、中国人民解放軍が台湾を取り囲み航空・海上封鎖を行うなど、中国は強硬手段に出た。ペロシ氏の訪台は、少なくとも「統一」を早めるための口実を与えることになり、このとき、台湾の市民は遠かった戦争を身近に感じた。

 東京の大手メディアに勤務し、退職後も台湾情勢を一貫して追い続けているジャーナリストの旺志明さん(仮名)は、2022年夏についてこう語る。

「戦争の脅威を敏感に感じたのが若者層でした。『台湾を守るために中国と戦うこと』が果たして最善の選択なのかと疑問に思うようになったのです」

 蔡氏は防衛費を増額し、4カ月間の兵役義務を1年間に延長する決定を行い、軍事訓練計画を増強させてきた。こうしたことが支持基盤である若者の失望につながり、2022年11月の統一地方選挙で民進党は大敗したのだ。

「このときも蔡氏は『中国と戦う』ことを掲げましたが、市民には響かなくなっていました」(旺志明さん)

 大敗で蔡氏は党首を辞任し、頼氏が新党首に選出された。頼氏は、蔡氏とは比べものにならないほどの筋金入りの独立論者として知られるが、「抗中保台」を大きく方向転換させ、「和平保台(中国とうまくやりながら、台湾を守る)」というスローガンを唱えるようになった。

 旺さんは「果たして米国は台湾のために血を流すのか…、ここに台湾人も疑問を持ち始め、『抗中保台』という言葉を再検証しなければならないという機運が生まれました」と振り返る。