海外と日本の就活・転職事情や人材活用の違い、理想的なリーダー像について【前後編の後編】写真はイメージです Photo:PIXTA

マッキンゼー・アンド・カンパニーで長年、東京オフィスのシニアパートナーを務めたピーター・ケネバン氏。マッキンゼー時代の貴重な経験から得た仕事軸を紹介するとともに、海外と日本の就活・転職事情や人材活用の違い、理想的なリーダー像について語ります。【前後編の前編】(ペイパル日本事業統括責任者 ピーター・ケネバン)

就活事情、海外と日本の大きな違い

 ペイパルの日本事業統括責任者になってから、知り合いでも何でもない海外の大学生からLinkedIn経由で「友達申請」のリクエストが来るようになった。日本人からすると「就職活動でそんな気安く、社長に連絡していいの…?」などと驚くかもしれないが、海外のこうしたフットワークの軽さが、「最初に挑戦したことがもしダメでも、また次、失敗してもその次」というように、先のステップへとつなげて自身のキャリアを築いていくことになるのだと思う。

 日本と海外の就職活動事情は異なるという話をよく聞くが、大学を卒業したら仕事を探すのはどこの国でも同じ。大きな違いがあるとするならアメリカの場合、就職した会社に生涯いるつもりはないことだろう。働きながら他にも面白いことを見つけ、やりたいことを探し、取得したいスキルを身に付けて…と考えている人が多い。

 一方、日本では就職に対するプレッシャーや堅苦しさがある。将来を決定することの重大さから、力みすぎのところがあると思う。だがそもそも、世の中が激しく変化している中で、10年後、20年後に、入社した会社が存在しているか、業態そのものが残っているか分からない時代だ。自分がエリートだと思っていたら、その仕事がAIに取って代わられてしまうこともありうる。とにかく、不確定要素は多い。

 日本では、会社に入ってみると理想と現実が違ったけれど、入社するのに力を注いだからという理由でそのまま残ってしまうケースが多い気がする。アメリカであれば、その会社が嫌でなければ残るけど、必要なスキルなどを取得して次の道を探すといった柔軟さがある。

 もちろん、海外でも地域や業態業種によって事情は異なる。ただ、私がマッキンゼー・アンド・カンパニー時代に経験した日本人の就職事情における“スティッキーさ”(Sticky:粘着性)を表すエピソードを紹介しておきたい。

 パソコン業界において、ある海外企業が日本の大手企業を買収したことがあった。その際に人員が余るため整理が必要という話になり、VRP(Voluntary Retirement Program)、つまり希望退職プログラムを提示することになった。買収側としては熟練したスキルを持ち、会社の中身が分かっている人たちに残ってほしい。が、こういうケースではしばしばリバースセレクション、つまり良い人材ほどプログラムを選択し退職してしまう現象が起きがちだ。

 フタを開けてみると、勤続年数18年といった経験のある社員がプログラムを希望していた。買収側は、「恐れていた(熟練人材ほど辞めてしまう)ことが起きてしまった」という感想を一時抱いた。ところが日本の大手企業側からすると、勤続20年未満はむしろ若手で、熟練は勤続30年以上など、より高い水準にあることが分かった。海外の買収側にしてみると、「若手というのは勤続5年~6年程度の人材だと思った」とのこと。まさに、日本と海外のギャップを体現していたと言えよう。

 記事の後編では、マッキンゼー時代に学んだ大事なこと、日本人が世界で活躍するために必要なことを紹介する。外資系と日系の採用の違いや理想的なリーダー像についても考えてみたい。

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