美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

アルノルフィーニ夫妻像 ヤン・ファン・エイク『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

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──なんかここに不気味な絵がありますよ?

いや、言い方っ(笑)。この絵とっても有名な絵なんですよ! ヤン・ファン・エイクという画家が描いた「アルノルフィーニ夫妻像」という作品です。

──あ、有名だったんですか?(汗)ごめんね、ヤン…なんとやら。でも何がすごいんですか?

ヤン・ファン・エイクです(笑)。とってもファンが多い画家なんですよ。彼が人気の理由はその細密表現でしょうね。つまり、とっても細かいんです。

──ふ~ん…。そんな風には見えないですけどね? で、この二人何しているんですか?

この絵は描かれたのが600年ほど前と古く、あんまり情報が残されていないのでいろんな説があるんですが、おそらく結婚の誓いをしているところではないかと言われています。

──結婚の誓い! あら、おめでたい絵だったんですね。でもどうしてわかるんですか?

まず二人が手を取り合っています。そして男性が手を挙げて誓いを表すようなポーズをしていますよね。

──はい…まぁそうですねぇ。でもそれで結婚の誓いですか? それだったら他にもいろいろ考えられる気もしますが…。

いえいえ、ここからがヤン・ファン・エイクの本領発揮ですよ! この二人の間の背後に丸い鏡が描かれているのがわかりますか?

──はい。ありますね。…ん、なんか中に描かれてますね…?

ヤン・ファン・エイクのすごさが「ぶっちゃけ、わからん」ので詳しい人に聞いてみた『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

そうです! そこに人が二人ちいちゃ~く描かれています。つまり、この新郎新婦の前に二人の人がいて、その人たちに向かって結婚の誓いを立てているところなんです。

そして、その二人のうちの一人はおそらく画家のヤン・ファン・エイク。だから、この鏡の上の壁に文字が書かれていますよね。これは「ヤン・ファン・エイクここにありき」と書かれてあって、結婚の誓いを見届けましたよ、という意味ではないかと言われています。

──えええぇーっ! ほんとだ! ちっちぇぇぇぇぇぇぇ!!

まだまだありますよ! その鏡の外の木の枠に丸い装飾が時計の文字盤みたいに並んでいるのがわかりますね? この丸の中にはイエス様の聖伝が一コマずつ描かれているんですよ? ほら、一番上はイエス様の磔刑です。

──ほ…、ほんとだ! いや、細かすぎるでしょ!!

すっごいでしょ? 細かさを確認してみてくださいね。

ほんとこの人の絵は細かくてすごいですよ! しかも超上手ですからね。

見てください、この子犬の毛並みとか、新郎のコートの質感とか、手触りまで感じそうなほどだと思いませんか?

──確かに、質感もヤバいですね。でもどうしてここに犬が描かれているんですか? かわいいけど…。

それもヤン・ファン・エイクの面白さの一つですね。この人の絵はメッセージが多いんです。

例えば犬は従順な動物ですから従順性を、脱がれた靴は結婚の誓いという神聖なことをする合図とか、左手に置かれたオレンジは何気なく見えますが、その当時オレンジはとても高価な果物。つまり、裕福であることを表すとかね! そのほかにもまだまだメッセージがあるんですよ!

──なんと…。初めて聞いた画家ですけどちょっと見くびっていました。ただの不気味な絵じゃなかったんですね…。

そこは覆らなかったか…(涙)。

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)