こんなに問題点を並べられたら、誰でも後込みしてしまいます。多くの企業でDXのお手伝いをしてきて、私たちが今感じている危機はそこにあります。

 もちろん、ここに挙げた課題には、この本のテーマであるデジタルエシックスに関わるものも多く、どれ一つとして軽視してよいものはありません。

 ですが、DXに限ったことではありませんが、現在抱えている課題を解決したいときや新しいことに挑戦しようとするとき、最も重要で、まず考えなければならないのは、個々人が幸せな社会であるために、どんな世界を作っていきたいのか、そのために何を実現する必要があるのかということではないでしょうか。そのためには何をしなければならないのか、そしてそこにはどんな課題があるのか。始める前から漠然と不安を覚えるのではなく、具体的な手順に落としていく過程で、出てきた問題への対処方法を検討していけばよいのではないでしょうか?

日本企業にかけている2つのもの
「目的(パーパス)」と「倫理(エシックス)」

 心配性であることは悪いことではありませんが、度が過ぎて悲観的になってしまうと、前に進むことができなくなります。日本社会では、「失敗を犯さない」ことが重視されがちですが、新しいことへの挑戦には、失敗が付き物です。それなら、小規模なテストから始めて「小さな失敗」を重ね、徐々に最終的な目標に近づけていくという方法もあります。デザイン思考的、アジャイル的アプローチです。

 現在は「第二の産業革命」ともいわれる変革の時代のまっただ中にあります。そこでは、技術と社会の関わりがより密接になろうとしています。次の時代のありたい姿を自ら追求し、実現していくためのチャンスが今まさに、やってきているのです。

 そこで、悲観に陥りがち、後込みしがちな日本社会、中でも日本企業に欠けているもの、必要なものは何でしょうか?

 私たちは、「目的(パーパス)」と「倫理(エシックス)」の2つを挙げたいと思います。

「パーパス経営」という言葉を耳にすることが増えていますが、パーパスとは、一言で言えば企業の社会的存在意義です。「我が社はなぜ、そのような事業を行っているのか?」「我が社は何のために存在するのか?」といった根源的な問いに対する答えがパーパスです。

 多くの企業は明確なパーパスを持って創業したはずです。ですが、時間が経って規模が拡大し、事業内容も変わっていくと、創業当初のパーパスは形骸化し、また、現在の姿とも合致しなくなりがちです。そこであらためてパーパスを定義し直すことで、自社が目指す姿や、そのために行わなければならないことが見えてくるはずです。パーパスに従って考えていけば、そのためにデジタル技術をどう活用するのか、何をしなければならないかも明確になってくるはずです。

 一方、倫理については、ピンと来ないという人も多いかもしれません。学生のときに習った倫理という言葉は、ソクラテスに代表されるような観念的なもので、企業活動とは結び付かないと感じるかもしれません。また、倫理というと、行動を規制する言葉と捉えている方も多いでしょう。「企業倫理」という言葉もありますが、それは法令やガイドライン等、外部からの「規制」を遵守することが軸となっています。

 それに対して、ここで挙げた倫理は、自ら考え、生み出していくものです。倫理は「守らなければならない」だけのものではなく、倫理に基づいて行動を変えることにより、より多くの人が納得できる大きな活動ができるようになり、最終的には私たちの社会に大きなアドバンテージを与えてくれるものだと考えています。

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