ビジネスでも日々の生活でもなくてはならないデジタル技術。日夜進化を続け、これまでの常識では考えられないようなテクノロジーも生まれている。デジタル時代になってさまざまな問題が起こる中で、今注目を集めているのが「デジタルエシックス」(デジタル倫理)。デジタルエシックスとはどんなものなのか、これからの社会にどのような影響を与えるのか――。その問いに答えるのが、新刊『デジタルエシックスで日本の変革を加速せよ』である。今回、同書の内容を一部抜粋して紹介する。
倫理がもたらすアドバンテージ
それでは、倫理によるアドバンテージとは何でしょうか?
それが最もよく表れるのは、デジタル化など、これまでにないことに挑戦するときです。
自動運転車など、社会に大きな影響を及ぼしそうな新しい技術やアイデアが現れたときは、多くの場合、法による規制が検討されます。しかし、法整備には時間がかかります。しかも、法整備にかかる時間は国によって大きく異なり、また、法規制の内容も違います。
変化の激しいデジタルの世界では、法整備を待っている間に他国でその技術やアイデアが実装されたり、先行して市場を席巻してしまうこともあります。
かといって、社会的影響について考えず、遮二無二スタートしてしまうのは危険極まります。その結果、社会に大きな悪影響を及ぼしてしまうのは、社会的責任の観点から何としても避けるべきです。
また、一企業・一個人の独断専行によって、新しい技術やアイデア、そしてその先に広がる新しい世界の可能性をつぶしてしまうことにもなりかねません。
法だけではなく、社会的承認を得られるかどうかという問題もあります。どんなに素晴らしい技術やアイデアも、社会に受け入れられなければ、実を結ぶことはありません。実際に、大きな注目を集めながらも、社会的承認を得られずに消えていったデジタルサービスや企業は少なくありません。
このような是非のグレーゾーンにある技術やアイデアに対しては、日本企業は、法整備や社会的承認を待ったり、同業他社の動向をうかがうといった受け身の姿勢になりがちです。DXにおいては、これが世界に遅れを取る大きな要因になっているといえるでしょう。
このようなグレーゾーンにこそ、有効に適用できるのが倫理です。
誰にどのような影響を及ぼすのか、どのような問題を引き起こす可能性があるのか、そして問題を回避する方法は? こういった課題を自ら考え、ポリシーを決めて守るべき基準を作り、それを維持していく体制を構築すれば、法や社会的承認を待たなくとも、新しい技術やアイデアを一歩ずつ進めていくことができるのではないでしょうか。
倫理的課題についてきちんと対話を行い、検討を重ね、その過程をステークホルダーに開示することは、後に何らかの問題が生じたときに損失を大きく抑えることにつながるでしょう。また、経済産業省が行ったガバナンス・イノベーション検討では、このような場合、たとえば、事故発生時の調査協力に速やかに応じ、必要な改善を約束するなどの一定の条件を満たした場合には、罰則を免除しようという議論も出ています。