西洋列強の進出で、
アジア諸国が植民地となった幕末
当時、無意味に悲観論が台頭していたわけではありません。『学問のすすめ』は明治維新後の1870年代に書かれていながら、西洋列強の脅威に強く警鐘を鳴らす記述が多く、維新後も日本という国家の自由独立が危機的な時代だったことがわかります。
『学問のすすめ』は、西洋列強の進出により実際に植民地となった国家の事例を挙げており、分析をすることで日本が植民地となることを避ける対策を全国民に提示します。以下は、『学問のすすめ』で書かれている西洋列強の植民地となった国家の事例です。
(1)アヘン戦争による清国の敗北
自身の実力と海外情勢を客観的に把握することなく蛮勇で戦争を開始した清は、外国人を野蛮人とさげすんでいたにも関わらず、阿片の密輸をしていたイギリスに敗退した。
(2)イギリスの植民地となり奴隷同然となったインド人
数千年の歴史を持ち、古代から数学など優れた学問を発達させてきたインドという国も、当時西洋列強のイギリスの植民地となり、インド人はイギリス政府の奴隷のような立場に堕ちていました。理由はインド人の視野が、国内だけに固定されており、広く世界と比較せず、ごく一部だけ見て自国の状態を過信し慢心していたからだ、と『学問のすすめ』で諭吉は指摘します。
(3)武勇の国だったトルコの経済崩壊
名目上は独立していても、商売の権利はすべてイギリス人・フランス人に独占された上で自由貿易を強制され、自国産業が壊滅。一切の工業製品をイギリス・フランスに依存することになり、自国の経済を管理する自由を失ってさすがに武勇を誇ったトルコ軍も貧困に敗北して役立たずとなる。
私たち現代日本人にも不思議と既視感のある描写ですが、3つの植民地化の事例は幕末明治を生き抜いた諭吉が今から明治初期に指摘した内容です(『学問のすすめ』初編、第12編から抜粋)。国家間の関係性、世界の情勢が変わるとき、どのような態度や意識の国家と国民が脆弱であるか、世界情勢を知る日本の先覚者だった諭吉の鋭い視点が、垣間見えます。
同時にこれらの記述から、『学問のすすめ』が単に学生向けの自己啓発書や勉学の重要性を説く道徳的な本ではなく、激烈なグローバル化と西洋列強の影響力から、日本という国家を守り、日本人が新時代にサバイバルしていくための戦略を分析した、変革指南書という側面を持っていたことがおわかりいただけるのではないでしょうか。