元ナンバーワン営業が顧客に対し
最初に“夢と理想”を聞く理由

 杉谷氏によると、その布石は大きく四つある。

 布石の一つ目は、「ポジティブな質問」をフックにして会話を回していくことだ。

 例えば、「この業界は今景気が良いと聞いているのですが、御社も景気が良さそうですよね?」といったもの。こちらもストレートな内容だが、ポジティブな側面に言及されて「嫌がる人はいません」と杉谷氏は断言する。

 訪問先の業績が本当に好調であれば、この質問を機に、伸びている分野や足元の課題といった具体的な話を聞き出しやすくなるというわけだ。

 かといって、仮に「いやいや、実はうちは景気良くないんだよ…」と返されても、臆せず「なぜですか?」「新型コロナウイルスの影響ですか?」などと次の質問を展開すればいい。場合によっては「実はこうで…」と不振の理由を聞き出せる。そうした会話の中に、受注につながるカギが眠っているかもしれないのだ。

 布石の二つ目は、「顧客の夢やゴールを聞くこと」だ。

 顧客側は「売り上げ・利益をアップさせたい」「業務効率を高めて社員の負担を減らしたい」など、ビジネスにおける何らかのゴール(目的)を設定しているはずだ。その一助になる商品やサービスを求めているからこそ、キーエンスなど他社の営業マンと面会していると言える。

 にもかかわらず、営業側が「自社の製品やサービスを採用してほしい」「顧客の役に立ちたい」といった感情を抑えられず、むやみやたらに自社製品を提案してしまうと、意味のない話を延々とすることになりかねない。

 顧客の時間を無駄にしないためにも、「お客さんのあるべき姿ややりたいことを、早め(商談の初期段階)にクリアにしておくべきです」と杉谷氏は語る。

 布石の三つ目は、「顧客への興味を示すこと」である。

 これまで述べてきた二点とも通じているが、「あなたの会社に興味があります」「興味があるのでお話を聞かせてください」などと言葉に出して伝えておくと、本音を聞き出しやすくなる。そうした言葉を掛けられて、嫌な思いをする人も少ないからだ。

「貴社に興味があります」などと明言しないまま、事業内容などについて質問攻めにし、熱意や前向きな姿勢を「察してもらう」ことも一応は可能だ。だが杉谷氏は、「そんな回りくどいことをするのではなく、最初に『興味があるので聞かせてください』と言えば、普通の人はすんなり教えてくれるはずです」と強調する。

 何事も「単刀直入」なのが、キーエンス流なのだ。