「戦う土俵は自分で決めたい」(川代)

川代 自分で土俵を決めたいんだと思うんです。その戦う土俵を、どうせ戦うんだったら。その選ぶ・選ばれないの話って、自動的に行われる部分が多いじゃないですか。社会というコミュニティに参加している以上、会社だったら会社の中で昇進する・しないとか、リーダーになる・ならないとかみたいな感じで、自動的にエントリーさせられるみたいな感じで。
 女性の話になっちゃいますけど、女性が「かわいい」って言われるの嫌だみたいな、あるじゃないですか。そういうのも、「勝手に土俵に上げさせられてる感」みたいなのがあるのかなと思うんです。みずから選んで、「女としての魅力を競い合うゲーム」に参加してるんじゃないのに、「女らしくしたら?」とか、「もっとかわいげがあったほうがいいよ」みたいなことを言われると、一方的にジャッジされてるような気がしてくる。
 で、SNSとかもあると、また「いいね」の数とかで参加しなきゃいけない土俵が増えるじゃないですか。それはもう日常的にあるから、「もうこれ以上いいよ!」みたいな(笑)。そういう感じで、「勝手にエントリーさせられる試合が多すぎる」みたいに、疲れちゃってる人がいるのかなと。でも、その一方で、自分でちゃんとエネルギーを費やして全力で頑張って、選ぶ・選ばれないの勝負をかける場所があって、その上で勝てるなら勝てるでいいし、全力でやって負けたいみたいな気持ちもあるのかなと思って。
 阿部さんの本には、負けるシーンもたくさんあったじゃないですか。でも、その全力でやって負けるというのもすごく尊いなと思うし、その経験がその後の人生の肥やしになることもあるなと思いつつ。

阿部 確かに。僕が宣伝会議さんでデザイナーの人とコピーライターの人がコンビを組む「アートとコピー」という連続講座を担当していて。昨年参加してくれたコンビの、この講座のポスターを作るという課題で書いてくれたコピーが、「全力の負けには、価値がある。」でした。今の話がまさにそうだなと。
 自分の全力を出したい場所をみんな探していて、それが見つかってる人もいれば、まだ見つける途中の人もいる。全力を出したからこそ――勝つか負けるかそれは分からないですけど――そこからまた新しい何かが始まる入口になるし、価値になる。それは絶対あるなと。
 みんな探してると思うんですよね。自分がやったことで誰かが喜んでくれる場所を。それは年齢、世代関係なく、みんな見つけたいと思ってるし、巡り合いたいと思ってますよね。

川代 そうですよね。そういうのに巡り合うためにはどうしたらいいんでしょうね。

阿部 それは、本当に微弱な電波でも、「自分はここにいます!」というのを発信し続けるってことがすごく大事なんじゃないかなとは思いました。川代さんもやっぱりブログで「元彼の好きだったバターチキンカレー」が話題になり、編集者の亀井さんとつながり、その書籍がきっかけで、また次の作品へとつながっていきましたよね。「ここにいます!」と声をあげ続けることしかないのかなって。骨も折れますし、時間もかかるんですけど、受信者はいると思うんですよね。

何かを実現したいなら、微弱な電波でも発信しつづけよう川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。現在はフリーランスライターとしても活動中。著書に『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)、『元カレごはん埋葬委員会』(サンマーク出版)。