強くなるとは、理想の自分に近づくということ。苦手を克服する、関心のなかったジャンルに触れる、ネガティブな考え方を前向きにする…。これらはすべて強くなるためのステップですが、なかでも言葉を「未来語」に変える方法は、今すぐにできる強さの磨き方です。本稿は、格闘技実践者であり医師でもある二重作拓也氏の著書『強さの磨き方』(アチーブメント出版)の一部を抜粋・編集したものです。
意識共有のために
存在する言葉
強くなるための有力なギア、それが「言葉」です。私たちは生まれた時代も場所も境遇も遺伝子も変えることができません。環境、体重、筋力などは継続によって変えることができますが、変化させるのに時間がかかります。今すぐに確実にできること、それは「言葉を変える」です。
言葉を大きく2つに分けると「共有のための言葉」と「自分のための言葉」があると考えています。
共有のための言葉、それはシンプルに言えば「約束」です。たとえば、「心臓とは何ですか?」という問いに対して心臓外科医、オリンピック金メダリスト、小学生では、経験も立場も行動範囲もボキャブラリーも全て違いますから、「心臓」という言葉に対して出てくる答えは同一ではないはずです。
それでも全員にとって「心臓という言葉がどんなものを表しているか」の概念についてはおそらく同一です。なぜなら心臓という言葉が、共通の約束事として共有されているからです。
「アイスクリームのことを今日から心臓と呼ぶことにしました」とか「来年の4月1日よりスマートフォンは心臓と言い換えます」とかいうことは基本的にはないのです(サーティワン心臓でバイト中に、心臓が水没して動かなくなったので心臓ショップへ行く途中、お腹が空いたのでコンビニで6個入りの心臓、ピノを買うことになります。そんなの嫌です)。ですので、既に定着してしまっている共通の約束事としての言葉は簡単に変えられるものではありません。
同時に、とても興味深いのは、共通の約束事としての言葉も「新しい」の出現によってどんどん変異してしまうことです。コロナは王冠の意味であり、その名の付いた自動車も企業もビールもあります。しかし2019年末以降は、新型コロナウイルス感染症を想起させてしまいます。COVID-19という呼称のほうが各方面にとって「優しいアナウンス」なのは明らかですが、コロナのほうが言いやすいために、共有しやすく、広まりやすいのです。
PCRという検査も、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略であり、DNAやその断片を複製して増殖させる方法(PCR法)として、生物の研究分野や医療現場において応用されてきたのですが、コロナ禍以降はCOVID-19の検査としてPCRの3文字が独り歩きし、それがスタンダードになった感もあります。
このように「共有のための言葉」も人間同様、変化を遂げます。ですから今、どんな言葉がどのような意味で使われているかを意識することは、時代の把握につながるのだと思います。