インフレ下で資産を守るための6つの格言
しかし、バーンズとボルカーの体験が物語っているのは、投資家はインフレの政治経済的な側面に対して細心の注意を払わなければならない、という点だ。
インフレは、一連の厳しい財政政策よりも政治的に望ましいのか? 当局はインフレの脅威を認識しているのか、それとも都合よく隠蔽しているのか? 財政支配は中央銀行の独立性を脅かすか? 財政安定リスクが大きすぎて、インフレにうまく対処できない可能性は? 政策が招いた景気後退は、インフレを解消するのか、それとも早すぎる金融緩和につながり、次の景気循環に向けてインフレ率の上昇を招くだろうか?
答えを持たない投資家たちは、不確実性に加え、潜在的に巨大な変動性(ボラティリティ)に対処する、という厄介な問題に直面する。
なんといっても、金融機関の不確実性が高い期間には、人々の信念が年ごとに目まぐるしく変わることがある。1970年代に起きたように、ある年には利益の出る賭けが翌年には損失を生む賭けに変わってしまうこともある。こうした厄介な状況では、分散こそが唯一のまともな選択肢といっていい。
低インフレの時代は、分散の機会を大きく減らした。ほとんどの国々の物価圧力が同じように限定的で、国債市場が同じように安定しているなら、仮に分散の機会自体は存在したとしても、分散のメリットはさほど大きくない。
しかし、インフレの再来と、それにともなう金融の不安定化のリスクが、すべての潮目を変えたのは間違いない。いくつかのシンプルな格言を覚えておくといいだろう。
格言1 1つの国または通貨圏に投資しないこと。インフレ抑制能力に乏しい国や通貨圏をうっかり選び、通貨変動リスクを高めてしまう恐れがある[*2]。
格言2 多くの投資家たちのように、株式はインフレに強い、と思い込まないこと。実際、1970年代のインフレではちがった。
格言3 今後インフレが無期限に続くという歴史の転換点に直面している可能性に備え、一定量の金を保有しておくこと。
格言4 現金や銀行預金の利益率はマイナスなので、過度の警戒はジリ貧になるだけ、と肝に銘じること。
格言5 実質利回りがマイナスの場合、資金を借り入れて不動産を購入し、次なるフーゴー・シュティンネス〔ドイツのハイパーインフレで大富豪になった人物〕になるチャンスがないか、じっくりと考えること(そこまでの幸運に恵まれる人は一握りだろうが)。
格言6 番外編。アメリカ南北戦争後の証拠を逆用し、ユーロの未来に対して長期的な賭けをしてみるのもいいだろう。ユーロ圏の中心部でインフレを発端とする政治的混乱の兆しが見えれば、北ヨーロッパの債券市場が高利回りの「準通貨」へと大化けするだろう。
*1 しかし、本書の執筆時点では、金価格は依然として停滞している。つまり、投資家たちはいまだにインフレ率が中期的におとなしくなる、と考えているようだ。
*2 1970年代中盤のポンド暴落はその典型例。