たびたびニュースを騒がせている「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶりであることをご存じだろうか(日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった)。インフレを経験として知っている人は少ない。そんななか、これから物価が上昇していく時代に突入しようとしている。
本連載では、ローレンス・サマーズ元米国財務長官が絶賛したインフレ解説書『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない』から、インフレの正体や投資への影響といった箇所を厳選して紹介する。
インフレへの不信が芽生えると、
貴金属の需要が上がる
本書はインフレの原因と影響について解説した本であって、資産配分に関するアドバイスを提供する本ではない。その手の本は世の中に山ほどあるが、そのほとんどがかなり明白な問題を抱えている。
これから慢性的なインフレが始まろうとしているのか、それともインフレ解消に本腰が入れられようとしているのかを判断するのは、控えめに言っても難しいのだ。
しかし、あとから見れば、インフレに関する判断が資産配分の最も重要な要因の1つであることは明白だ。アーサー・バーンズがFRB議長の座を引き継いだ1970年時点でも、インフレ率は5.6%と高水準だったが、彼が辞任する時点では、いっそう上昇し、しかもその勢いを増していた。
諸々のリスクを踏まえれば、1970年は株式投資に適した年とはいえなかっただろう。翌8年間のうちの4年間で、株式の実質利益率はマイナスに転落し、それどころか8年間のトータルで見てもマイナスだった。
バーンズの在任期間全体で見ると、株式と国債への投資家たちは、実質ベースでおおむね等しい損失を出した。社債や不動産はわずかなプラスを死守したものの、概して、金融市場はこの期間に大きな傷を負った。
対照的に、1979年は株式投資には打ってつけの年だった。当初インフレ率が急落したボルカー時代、平均的な株式投資家の資金は実質ベースで倍増した。債券利回りも素晴らしく、ボルカーの8年間の在任中、国債の実質利益率は60%、社債に至っては94%におよんだ。
しかし、ある「資産」だけは別だった。金価格は、1970年から1978年までで5倍以上になったが、1979年から1987年までに30%しか上昇しなかったのだ。
実際には、1979年から1987年は2つの時期に分かれた。投資家たちがボルカーの決意に疑問を抱いていた1979年から1980年まではいっそう大幅な値上がりが起きたが、その後は持続的な値下がりが続いたのだ。
要するに、インフレに対する不信が芽生えると貴金属の需要が大幅に高まり、信用が戻ると同じくらい大幅な需要の低下が起こりうる、ということだ[*1]。