「こんなに利益が出たのに、手元に残るお金はわずか」
経営者なら、誰しも一度はこう思うはずです。だからといって、小手先の節税に躍起になってはいけません。会社のお金を1円でも多く残し、そのお金を会社の投資にまわし、会社をより成長させる。それこそが経営者の仕事です。
本連載は、「1円でも多く会社と社長個人にお金を残す方法」を学ぶものです。著者は、財務コンサルタントの長谷川桂介氏と公認会計士・税理士の黒瀧泰介氏です。インボイス制度、各種法律に完全対応の『今日もガッチリ資産防衛――1円でも多く「会社と社長個人」にお金を残す方法』の著者でもあります。経営者の超リアルなお金の悩みに対し、あますところなく解決策を提示した1冊になっています。
出張手当の意外なルールとは?
出張手当とは、役員や従業員が勤務地から離れた地域に出張する際に支払われる手当のことです。出張手当は、全額を損金算入することができます。また、支給される側にとっても、所得税の対象とはなりません。
そのため、宿泊を伴う出張が多い会社の場合は、出張手当の制度を整えることで、会社と役員・従業員双方の節税と手取りの増加が見込めます。ただし、出張手当を支給するには、「出張旅費規程」という社内ルールをつくる必要があります。出張旅費規程は、次の5点を押さえておけば形になります。
① 目的
出張旅費規程をつくる目的です。役員や従業員が、業務のため出張する場合の旅費に関する規程であることを記します。
② 定義
何を「出張」と呼ぶかをしっかり定義します。
一般的には、「移動距離が100キロメートルを超える場合や、宿泊が必要な場合」などと記載します。
③ 適用範囲
原則として、「役員を含む全従業員を対象とする」ことを明確に記します。
④ 支給額
日当、宿泊費、交通費などの支給額を、役職や「宿泊ありか、日帰りか」などに分けて、次のように細かく決めます。
【社長が宿泊ありで出張した場合】
・日当:5000円
・宿泊費:15000円
・交通費:実費
⑤ 手続き方法
出張の申請フローや、支給の方法(実費か定額支給か)、帰社後に出張報告書と旅費精算書を提出して精算する、といった出張に関する手続きを定めます。出張旅費規程を決めた後は、それに則って出張手当を支給すれば、福利厚生費として認められます。
なお、日当や宿泊費は、「どれだけ高く設定してもいい」というわけではありません。出張手当の金額は、社会通念上相当な範囲内に設定しなければならないと決められています。
「社会通念上相当な範囲内」というのもまたあいまいな言葉ですが、基準として税務調査でよく引き合いに出されるのは、総理大臣の宿泊出張手当です。これが意外に少ないのです。
【総理大臣が宿泊出張をする場合】
・日当:3800円(1日あたり)
・宿泊代:1万9100円(または1万7200円)
・食卓料:3800円
1泊2日だとすると、日当は7600円。社長が日当で2万円も3万円も得るようなら、税務署に突っ込まれかねない材料となります。
もちろん「総理大臣といえど、税金で国民のために働く公務員でしょう? 社長の日当と比べるのはおかしくないか」と考える社長さんもいるでしょう。そのため、明確に金額の基準を定めるのは難しく、最終的には税務署と納税者との調整によるところが大きくなります。また、税務署の調査が入ったときに備え、出張の記録をその都度作成しておくのも重要です。
(本原稿は『今日もガッチリ資産防衛――1円でも多く「会社と社長個人」にお金を残す方法』から一部抜粋、追加加筆したものです)