仮面ライダー出身・半田健人が語る、“昭和”歌謡の魅力とは?ライブ活動も精力的に行う半田さん。アルバム「昨日とちがう今日だから」では、作詞、作曲、編曲から音作り、ジャケットデザインまですべて半田さんが手がけた

 昭和歌謡が社会の中で果たしてきた役割は確実にあったと思います。単純に、娯楽の種類が今ほどなかったのもありますけど。歌を聴く時間は、今よりも多かった。そこに歌がなかったらって思うと、ずいぶん寂しい時代だったと思いますね。遡ると、「リンゴの唄」(45年)に励まされて頑張ったっていうのは、言い伝えられていることでもあります。

 最近は、この歌で励まされたんだってあまり聞かない気がするんです。いろんなものが不足した時、エンタメは後まわしにされる。昭和40年代ぐらいまでは、まだ国民自体が貧しくて、楽しむ娯楽の中に歌があったと思います。歌に頼ってた時代と言い直してもいい。昭和歌謡があったから、頑張れたんですよね。

 歌が大切に扱われていたからこそ、曲を1曲出す熱量も大変なものでした。何人もの大人が頭をひねって徹夜し、体を酷使して作ってたと思うし、歌がかわいがられてた時代なんでしょうね。だからこそ、心に刺さるんでしょう。「泣きのもう一回」を録り直したり。そこまでこだわってやってたんですかって感じですよ。みんなが神経を研ぎ澄ませて作業をして、奇跡的な歌が生まれ、感動が聴く者の胸に広がるんです。

 昔の曲って、揺らぎがあったと思います。修正や編集ができなかったのが昭和ですから、完成度の高いものを作ろうとすれば、納得いくまでやり直すしかなかった。または、腕のいいスタジオ・ミュージシャンを連れてくるとかしかなかった。今はできなければ直す。できる人がいなければ、コンピューターにやってもらう。その差はとてつもなく大きいと思います。

 歌謡曲はよくできていて、本当に理解するには、技術が必要です。のめり込んで聴くためには、自分から脳みそのふたを開ける行為が必要なんです。一見、何も考えなくても、楽しめるような作りになっていますが、そこから一歩奥に入った時にハマるんですよ。「今の流行歌の歌詞は、作詞じゃなくて日記だ。日記のほうがいいなら受け入れよう」と阿久先生は言います。歌謡曲は深いんです。

仮面ライダー出身・半田健人が語る、“昭和”歌謡の魅力とは?『TOKYOレトロ探訪 後世に残したい昭和の情景』
レトロイズム (編集)
定価1,760円(朝日新聞出版)

 大げさに言えば、クラシックですよね。カバーで歌い継がれていっているジャズやクラシックと同じだと思います。そういう時代になってきているので、阿久先生がおっしゃる通り、「歌謡曲は、簡単に死ぬようなものじゃない」という言葉も、全く的を射ていました。

 僕の若い頃は、足を使って探さないと手に入らないから、地元の中古レコード屋に行って、ほこりを被ったレコードをあさっていました。カビの匂いとかをかぐと、自分は古いものを聴いているんだなと思いながら、それに針を落としていたんですけど、そういう感覚を、今の子にも味わってもらいたいですね。

(文 今村博幸 写真 関口 純/生活・文化編集部)

AERA dot.より転載