チームの書き手も、文章にすべて味があります。東京の定食をルポした中島るみ子さんの強烈な書き出しは、今も忘れません。

「私は男にはうるさくないがコメにはうるさい。この傾向は20歳の坂を上り30を超えるに従ってますます顕著になった。デブでもいい、はげもまあ許そう、この際だから人間欠点があればその分長所もあるものだと思うが三度のご飯となるとそうはいかない」

 こう前書きしたあと、日本中の米の種類と炊き方を実験して、その上で定食屋のご飯を実食、お店に作り方を聞くという徹底ぶり。

 ラーメンなら、前述の「原寸大シリーズ」から「恵比寿ラーメン」を引用すると、「どんぶり中を眺めると丼の金、ノリの青緑、チャーシューの薄茶色、メンマの茶色、が透明スープを背景に美しい佇まい」という具合です。

 日本料理の板前だった店主が二十数年前に開店し、独創的なラーメンを作り続けている糸松では、「どさん味噌」1種類を火にかけて味噌臭さを取り除き、11種のスパイスを練り合わせたものが麺のベース。これを表現すると、「じっくりじっくり煮込んでゼラチン質たっぷりのスープと合わせて北海道という厳しい自然が生み出した個性豊かなローカル色となった」などなど。

 私も手伝いでチャーハンに挑戦しましたが、お昼に完食3杯は当時30歳でも相当きつい作業でした。その上、その店の取材はすべてカット。後になって、厳選した30冊に入った900店が20年後どれだけ残っていたかを、岐阜女子大学の教授になってから、ゼミで調査しました。

10年後には残らない人気飲食店を
量産し続ける食レポの課題

 30冊900店全体の中で、調査可能なもの873店。 営業している店408、閉店した店465、大体4対6の割合で残っています。実は、これは驚異的な数字なのです。政府の統計(経済産業省)によると「飲食業界」の廃業率は、1年後30%(生存率70%)、2年後50%(生存率50%)、5年後60%(生存率40%)、10年後95%(生存率5%)。他の業種だと法人廃業率は、1年後27%(生存率73%)、5年後58%(生存率42%)、10年後74%(生存率26%)ですから、飲食店の生存率がとても低いのがわかりますが、その中で、20年後も4割強残っている店を選んでいるという点だけでも、このシリーズの味覚探求の鋭さががわかります。

 テレビ関係者のみなさん、安易に視聴率がとれ、撮影も簡単だからといって、こんなボキャブラリーと調査で日本中に味覚オンチと勘違い食通を増加させるのはやめてください。紹介した店には一時的にお客が殺到しますが、その後あっという間にいなくなります。10年後には残らない飲食店を増やすだけだと思うのですが――。

(元週刊文春・月刊文芸春編集長 木俣正剛)