そのために必要なマインド・セットは、(1)常に適度な「リスクを取ること」、(2)他人と異なることを恐れずにむしろそのために「工夫すること」の2点だ。

 息子よ。君に宛てた手紙(編集部注/癌が再発して余命を自覚した山崎氏が、2023年春、ご子息の大学合格を祝って送った手紙。著書の巻末に掲載されている)の中では、「『自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ』ことを目指す古いパターンよりも、『自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る』のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった」と書いた。あの部分の意味はこういうことだ。

天才ではないただのサラリーマンが
10兆円の資産を築いた理由

 さて、新しい働き方の、具体的な手段の要点は「株式とうまく関わること」だ。これに尽きる。

 少し極端な例だが、「Forbes(フォーブス)」誌による2023年の世界の長者番付の上位10人を見てみよう。

図1_世界トップ10(2023年)同書より転載 拡大画像表示

 1位から10位まですべて、手持ちの株式の評価額が大きいことで富豪になっている人々だ。仕事の内容としては、有名投資家のウォーレン・バフェット氏が少々異質だが、多くは企業の創業者で自分の会社の株を大きく持ったまま会社を成長させて富豪になっている。

 だが、この中で最も注目すべきは、第10位にランクインしているスティーブ・バルマー氏だろう。バルマー氏はマイクロソフトの長年の社員で創業者のビル・ゲイツ氏に信頼されていたが、天才ではない「ただのサラリーマン」だ。しかも、ゲイツ氏の後にマイクロソフト社の社長を務めたが、バルマー時代のマイクロソフトは業績が停滞した。それでも、マイクロソフトの株式を持ち続けていたら、次の社長の時代の同社の再成長による株式時価総額の増大で、資産評価額10兆円を超える富豪となって番付にランクインした。経済的には、世界で最も成功したサラリーマンだろう。

 ここにいる人々はすべて、自分の時間を売って毎年報酬を稼いで、それを積み重ねて富豪になった訳ではない。彼らの資産は株式によって作られている。