だから穀物メジャーという狭い範囲に括り付けておくことはもはや適当ではなく、食料とそれに関連するありとあらゆる事業を統括しているという意味で「フードメジャー」と呼ぶことができよう。世界的に不足する穀物をはじめとする食料は、広く世界に配られるべきであるが、フードメジャーの存在を抜きにしては語れない。

国際サプライチェーンが
コロナや戦争で分断された

 平和だった時代、食料は主に各国に拠点を持つフードメジャーが生産国で荷を集め保管、輸出手続きを経て消費国(輸入国)へ運び出し、輸入業者による輸入手続きを経て加工業者や卸売業者などを経て小売業者へ、という流れが一般的だった。ここには、それぞれに隣接する者同士をつなぐ2つの並列するチェーン(つながり)がある。一つは「商流」という経済行為を効率化するチェーン、もう一つは食料という物資を運ぶ「物流」というチェーンである。実はこれらのほかにもう一つ重要なのは、隣接する者同士をつなぐ信頼という「心流」という第三のチェーンである。「心流」は筆者が以前から提唱しているもので、円滑な流通においては欠かせないものだと考えている。食料の国際的な流れは、商流・物流・心流がバランスを取って初めて機能するものだ。

 このバランスが崩れるきっかけは、自然災害・新型コロナウイルス・地域紛争・米中対立(相互制裁)である。なかでも、パンデミックやロシアのウクライナ侵攻、米中対立は食料の国際サプライチェーンを分断させた。

 新型コロナウイルスが世界的に発覚する前の2019年8月と12月、筆者は中国農村部にいたが、養豚業者は、すでに「エサが来ない、成豚を出荷できない、獣医が来ない」と嘆いていた。大豆を原料とするエサの大豆粕は急騰、スーパーの肉小売価格も高騰していた。米中の輸入関税の引き上げ合戦はアメリカ産大豆の対中サプライチェーンの分断となり、あおりをうけたブラジル産大豆の対中輸出が増加し、既存輸入国が動揺、国際価格が上昇した。ロシアのウクライナ侵攻では黒海ルートによる両国の小麦やトウモロコシ、ロシア産化学肥料のサプライチェーンが被害を受けた。