こうしたサプライチェーンの分断や被害は、世界100カ国以上からの輸入に頼る日本の食料安全保障にも動揺をもたらした。世界の食料貿易市場における品薄や物流の滞りの頻発は価格の上昇を招くが、日本向けの食料を扱うバイヤーは、より多くのマネーを握る中国やインドのエージェンシーに競り負ける事態が増えたという。加えて日本の経済力の低下が恒常化し、食料サプライチェーンから脱落する恐れがでてきた。このとき、円安も手伝って、日本のほとんどの食料価格は毎日のように急騰し続け、いわゆる貧困世帯だけでなく一般庶民の台所をも直撃した。

 そして、国際サプライチェーンにおいては、多国籍企業や商社、フードメジャーなど多数の組織が流通過程ごとに複雑に関わっており、実態を容易に知ることはできない。この闇の解明に向かうことは、日本の食料安全保障を強化する意味でも避けられない。

「食料貿易の自由化」は
現実的に成立しない

 世界食料危機を和らげるためには、一部で食料貿易の自由化を進めるべきだという声がある。たしかに自由貿易論者が主張するように、関税や輸入割当制限などの制度的な輸入障壁を撤廃または緩和すれば、当事者間全体の貿易は数量・金額ともにある程度は増えるかもしれない。

 しかし特定の農産物を生産している2つの国が貿易をした場合、どちらかが価格競争において輸入が増加し、部分的あるいは全部に相当する国産品を犠牲にして、需要を埋めるように動くのが原則である。

 このような状況が長く続けば、輸入国の当該農産物は衰退するか、ひどい場合には消滅しよう。他方、理論上、別の農産物については逆の結果が生まれる可能性が残されている。

 これを指して、ウィンウィンの関係とする意見もあるが、双方ますます繁栄する産業と消滅・衰退する農作物を互いに持ち合うことになるだろう。消費者には効率的かもしれないが、消滅・衰退する農作物は繁栄の犠牲者ともいえる。このような貿易制度はけっして好ましいとは思わない。