ビジネスの海外出張の3類型

 ビジネスの世界では、現在、幹部などの要人が外国を訪れる目的は大きく三つに分けられる。

(1)取引先(候補含む)の表敬訪問や周年式典などへの出席

 これは国際ビジネスにおいて非常に重要な行動となる。親睦を深め、関係を強くし、将来のビジネスチャンスを創出するための基礎を築く。また、式典などに出席する際には、関係する業界の首脳陣や国家や地域の重要人物とも会えるから、この機会を利用して自社を売り込むことができる。

 このような訪問は、やらなかったからといってすぐにビジネスに悪影響が出るわけではないし、やったからといってすぐに成果が出るわけでもないが、長期的には、相手や地域との関係を深め、信頼を築き、新しいビジネスチャンスを得るために非常に重要である。特に、トップ同士の関係性の強化は、いざというとき(たとえば地域紛争などで物資の供給が難しくなったとき)の対応力において、何もしていなかった企業と比べ、決定的な差を生む。

 一方、同じような表敬訪問でも、出席している他の重要人物たちと積極的に交流せず、自社を売り込むこともなく、式典後に観光地を訪れ、帯同した身内とご当地料理を食することだけを楽しみにしているようなトップも残念ながら未だにいる。

(2)定期的なビジネス課題の共有と方針の決定

 例えば、グローバル企業のCEOが1年に1回アジアツアーを行い、各地域の現地法人で、朝から晩までビジネスの状況を確認し、課題を明確にし、重要な意思決定を行うようなことがある。これらは非常に多忙を極める活動であり、現地法人にとってもCEOにとっても真剣勝負の場である。

 また、現地社員との質疑応答から、将来有望な社員を発見し、新たな挑戦の場を与えることに力を入れるトップもいる。そして、夜は夜で、その地域の有力な顧客や重要なサプライヤーと食事を共にして、ビジネス環境の向上を図る。すさまじいエネルギー量である。

 この業務においても、現地法人の社長が設定した時間割に沿って、現地の状況をただまん然と聞き、通り一遍の挨拶だけして、夜は盛り場に出かけるようなトップもいる。

(3)特定の課題の遂行

 M&Aの案件をまとめたり、大きな受注を決めたり、重要な事件を解決したりするなど、特定の目的の遂行のために行われるこれらの訪問は、しばしば緊急性を要し、高度な専門知識とスキルが求められる。もちろん100%仕事であり、誰もが寸暇を惜しみ、身を粉にして必死に業務を遂行する。さすがに遊びの要素が交じる余地はない(はずだ)。

 このように見ると、(1)の「取引先(候補含む)の表敬訪問や周年式典などへの出席」は、ことによると、「遊び」にもっとも近いかもしれないが、すでに書いたように、これは真面目にやれば大きな成果をもたらす重要な行動であり、「遊び」のカテゴリーに入れるようなものではない。

 過去はともかく、ビジネスの領域においては、いまや真面目な幹部が多数派であり、ビジネス文脈においては、「外遊」はすでに死語である。

 海外出張は、もちろんいかなる意味でも本来的な意味での「遊び」ではないし、「遊軍」的な意味での「遊」的な要素もなくなり、完全に日常業務に組み込まれている。海外出張を単なるぜいたくと捉えることはほぼない。むしろ、大変な仕事をよく頑張っていますね、と社内外からねぎらわれるような仕事なのである。