被害総額60億円と言われている広域特殊詐欺事件、通称「ルフィ」事件。実行犯のひとりで、漫画『ONE PIECE』になぞらえて「ナミ」と揶揄された寺島春奈容疑者は、いったいどのような人生をなぞって犯罪者になったのか。実行犯たちの素顔に迫ったルポルタージュ『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)より一部を抜粋・編集し、“名家のお嬢様” がいかにして転落したのかについて明らかにする。(全2回/2回目)
高校を中退後に
キャバクラ勤務の噂も
寺島の小中学校時代の同級生に当たることで、すぐに「タバコ」の裏付けが取れた。地元の青年となった同級生は少し興奮気味に話した。
「1番覚えているのは、モテたことかな。やっぱり昔から可愛かったですから、男子には人気ありましたよ。小学校のときはおしとやかなイメージもあったけど、中学になると活発で、ソフトテニス部に入るとますます人気が出た感じですね。高校は別の学校だから、よくわからないですけど、高校に入ると悪い連中とつるむようになって、退学したと聞いてました」
悪い連中とはどんな人間だったのだろうか。
「このへんは田舎だから“本当の悪さ”をするわけではないですよ。夜中にコンビニでたむろしたり、禁止されているカラオケに行ってタバコ吸ったり、原付で2人乗りしたり。そんな程度でも田舎じゃ『ワル』と見られます。制服のスカートを短くしたり、派手な格好をするだけでもね。なぜそんなことをしたかって?自分がいる環境が息苦しかったんじゃないですか。寺島の家は教師一家で、名家だと周りから見られているのは寺島も感じていたと思います。実際、寺島のきょうだいもみんな優秀でした。ただ寺島にはそう振る舞うことができなかった、それだけじゃないですか」
シンプルな答えではあったが、納得できた。
「高校を中退したあと、寺島が権堂(=長野市随一の繁華街)でキャバ嬢をしてるって噂が流れたんですよ。まだ18にもなっていない年だから、お姉ちゃんの身分証を使って働いてるとかって話題になって。そっとしておいてあげればいいのにな、って思ってましたけど……」
周辺を取材していると、生育環境の良さを感じた。都会育ちの筆者にとっては、自然や、地域のつながりというものに憧れを抱くことがある。ただ、土地の人にとってはその濃密さに辟易することもある。ただでさえ寺島家は「名家」の名を轟かせていた。取材中も「寺島春奈」という個人名よりも「寺島さんちの子」と捉えている住民のなんと多かったことか。しかし、寺島はそんな地元を悪く言わなかった。別の女性の同級生は寺島に好意的だった。
「20歳のときに同窓会をしたんですけど、東京からわざわざ参加してましたよ。その時に東京ではやりの”ギャル”の格好をしていて浮いてたけど。たしかにこのへんじゃ、高校中退には『ワル』のレッテル貼られるけど、堂々としていましたよ。楽しそうにお酒を飲んで、久しぶりの地元を満喫している感じでした。同級生ですから、会って話せばすぐに昔の春奈に戻ってましたね」