日本紙幣を数える手写真はイメージです Photo:PIXTA

被害総額60億円と言われている広域特殊詐欺事件、通称「ルフィ」事件。多くの若者を手駒にし、犯罪を繰り返した幹部たちはススキノで出会い、ルフィ事件の“原型”となる事件を起こしていた――。実行犯たちの素顔に迫ったルポルタージュ『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)より一部を抜粋・編集しお送りする。

「ルフィ」事件の
事実上の捜査集結宣言

 事実上の捜査終結宣言2023年師走――。90代の女性が強盗犯に暴行を受けて亡くなった忌まわしき「狛江事件」から1年が経とうとしていた。

 そしてこの1年間は、大なり小なり、ルフィに関連する報道が途切れることはなかった。しかし、2023年12月初旬に報じられた「ある重大な契機」は、事件発生当時からしたら、考えられないほど小さな扱いだった。

稲城の強盗を指示容疑、「ルフィ」ら4人再逮捕 全国8件目で区切り
 全国で相次いだ強盗事件のうち、昨年月に東京都稲城市で起きた事件を指示したとして、警視庁は日、フィリピン拠点の特殊詐欺グループ幹部4人を強盗致傷と住居侵入の疑いで再逮捕し、発表した。同グループ幹部を強盗の指示役として立件するのは8件目で、捜査の区切りとなる。
 4人は実行役8人と共謀して昨年10月20日、稲城市の住宅で、30代女性を粘着テープで縛るなどの暴行を加え、現金約3500万円や金塊など約140点(計約860万円相当)を奪った疑いがある。4人は「ルフィ」「キム」などと名乗り、フィリピンからスマートフォンなどで指示したと同課(警視庁捜査一課)はみている。(朝日新聞デジタル 2023年月5日付 カッコ内は筆者)

 見出しに躍る「区切り」というのは、2022年10月に東京・稲城市で起きた強盗致傷事件をもって一連の「ルフィ事件」の捜査を終えたことを暗に意味していた。事実上の捜査終結宣言だった。つまり、当初数十件の強盗事件や特殊詐欺事件での余罪が考えられていた「ルフィ」らに関して、公判維持が可能と逮捕にこぎつけたのは結局8つの事件だけだったことを示していた。警察による事実上の「捜査終結宣言」は相当な数の事件が“闇に葬られた”ことを意味する瞬間でもあった。

 しかし、1年近くにわたり取材を続けてきた私たち取材班にはある共通の思いが芽生えていた。「なぜ若者たちが『闇バイト』に手を出すようになったのか」ということだ。

 一方で、「ルフィ」たち幹部自身も堕ちた人間ではないかという思いに駆られるようにもなっていた。「ルフィ」もまた「闇バイト」に応募してきた若者たち同様、使い捨てのコマの一つたった可能性もある。そうなれば、再逮捕となった「ルフィ」たちの半生を明らかにせねば、この取材を終わらせることはできない。今村磨人、渡邉優樹、藤田聖也、小島智信、「ルフィ」幹部4人が出会ったとされる繁華街、札幌市のススキノを回ってみることにした。