個人消費の下押し要因は物価上昇だけではない。消費の原資となる名目ベースの可処分所得も、同0.2%と小幅な伸びにとどまっている。
人手不足などを受け高い賃上げ率が実現する中で、名目可処分所得が伸び悩む背景として、年金や公的医療保険など社会保険料の負担増を指摘できる。23年の可処分所得の内訳を見ると、家計全体に支払われた賃金などの総額を表す雇用者報酬は前年比1.7%増加した。
一方、年金や公的医療保険の保険料などが含まれる社会負担の支払額は同3.1%も増加しており、これが可処分所得を0.8%ポイント下押しした。税や社会保険料などを支払う前の所得総額に占める社会負担の割合は20.5%と、前年に比べ0.4%ポイント上昇している。
家計の社会保険料負担は、今後も増加が見込まれる。高齢化に伴う給付増を背景に、公的医療保険や介護保険の保険料引き上げは避けられない見込みだ。さらに、少子化対策の財源として医療保険料と合わせて徴収する「子育て支援金」の創設も計画されている。
足元の家計を取り巻く環境に目を向けると、明るい材料も出てきた。今年の春闘では前年を上回る高い賃上げ率の実現がほぼ確実な情勢であるほか、消費者物価の騰勢もピークアウトしつつある。しかし、社会保険料負担の増加が続けば、個人消費は中長期的に力強さを欠く状況が続きかねない。家計の負担を軽減するためにも、政府は医療保険や介護保険の給付の抑制に本腰を入れて取り組まなければならない。
(日本総合研究所調査部 副主任研究員 村瀬拓人)