この過程で男性は、女性のように親やきょうだいとの密接な交流を続けている人が少ないことはすでに指摘しました。男性は結婚の可能性を留保したまま、自分自身のライフスタイルの落ち着きどころを時の流れに任せている状態にあります。

 また、友人・知人との関係も女性に比べて希薄で仕事中心のライフスタイルを続けている例が多いという特徴がありました。酒井計史は、シングル男性については、性別役割分業に基づいた家族の中での稼得役割中心のライフスタイルに代わるライフスタイルが確立しておらず、パートナーを得て結婚するまでのモラトリアムのまま時間が過ぎている状態にあると表現していますが、本稿の分析結果は、この表現の妥当性を裏打ちするものとなっています。

 そのため、法律婚に縛られない共同生活が普及するほどではなく、シングルの多くは、ひとり暮らしを続ける公算が高いといえるでしょう。

 無意識的にでも結婚して家庭を持ちたいという願望のあるミドル期シングルの男性の多くが、結婚できない状態にあるのは、結婚が個人の選択に任される時代となっていることに加えて、東京区部の環境がシングル化を助長している面もあるのです。

 それはどういうことでしょうか。大都市の環境には、結婚する・しないの自由が許されるメリットがあるとともに、家庭を持てるかどうかは自己責任の問題として放置されてしまう傾向があるからです。

書影『東京ミドル期シングルの衝撃 「ひとり」社会のゆくえ』(東洋経済新報社)『東京ミドル期シングルの衝撃 「ひとり」社会のゆくえ』(東洋経済新報社)
宮本みち子・大江守之 編著、丸山洋平・松本奈何・酒井計史 著

 しかも、結婚できるかどうかが男性の経済力と密接に絡んでいて、低所得の男性が結婚しにくいことは前段で指摘した通りです。低所得でもふたりが協力すれば暮らしていけるという展望も自信も持てないのです。男らしさ規範の強さと家族形成を支援する政策や環境の不在の結果といえるのではないでしょうか。

 その一方で、50代以後の男性シングルの、「ひとり暮らしを続けたくない」「ひとり暮らしを続けるかどうかはわからない」という回答が多いのは、ひとりで暮らすことを支える人間関係を築くことなくひとり暮らしを続けてきた結果といえなくもありません。

 調査によれば、男性の暮らし満足度は女性より約1割低くなっています。女性の所得水準を上回る男性が、暮らし満足度において女性より低いのは、シングルで豊かに暮らすという点で大きな欠落があるからではないでしょうか。