中国で広がる「低空経済」って何のこと?深セン・広州が中心地に深センの夜景 Photo:luxizeng/gettyimages

「低空経済」という言葉が、今、中国の経済系メディアでよく見られる。3月5日に全人代が開幕し、李強・国務院総理(首相)が「政府活動報告」を行った際に、「新たな成長エンジンとしてバイオものづくり、民間宇宙産業、低空経済などを積極的に発展させる」と述べたからだ。「低空経済」が「政府活動報告」で取り上げられたのは初めてのことだ。中国の「低空経済」の今を解説しよう。(北京理工大学教師 吉田陽介)

2024年は中国の「低空経済商業化元年」

 そもそも「低空経済」とは何か。

「低空」とは、高度1000メートル以下の低高度(地域の実情と実際のニーズによっては、4000メートル以下)の空域のことだ。その空域で営まれる民間の有人・無人航空機によるモノや人の輸送などの低空飛行活動をけん引し、関連分野を融合させた発展を促す総合的な経済形態を「低空経済」という(参照:「低空空域管理改革の意見」)。

 具体的には、「ドローンによる宅配便配達」「空飛ぶタクシー」「ドローンによる測量マッピング」「空中環境モニタリング」「農業用ドローン」「映画・テレビの空撮」などが挙げられる。

 また、「低空経済」は、大きな発展の余地がある。4月9日の「大衆ネット」の報道によると、eVTOL(電動垂直離着陸機。ヘリコプターのように垂直に離着陸する)の生産許可証を、eVTOL製造企業に発行し、低空経済の「商業化」に弾みをつけた。

 中国は、2024年を「低空経済商業化元年」と位置づけており、ドローンなどの消費が加速するだろう。2階以上の建物にいる顧客にドローンで出前を届けたり、空中タクシーで出かけたりするシーンが珍しくなくなる日はそう遠くない。

 中国民用航空局が発表したデータによると、中国の低空経済の市場規模は2025年までに1.5兆元(1元=約21円)に達する見込みで、2035年にはさらに3.5兆元に達する見込みだと言う。

「中国経済周刊」によると、魏進武・中国聯通研究院副院長は「低空経済がカバーする分野とシーンが幅広く、その概念を出すことによって、物流、観光、緊急救助、農業生産など新興応用分野をより全面的にカバーできる」と述べている。低空経済の発展により、当該産業だけでなく、それに関するインフラなどの産業も発展することになり、経済全体にプラスとなるだろう。

 さらに、3月30日の「財富師21」は、「2023年、中国の従来型有人機の飛行時間は135.7万時間、無人機の飛行時間は2311万時間に達した。現在登録されている中国国内のドローンは118万機で、うち、中・大型ドローンは10万機に上る。全国のドローン生産メーカーは2200社に達した」とし、中国には低空経済の発展のための基盤があるとしている。

 法的な整備も進んでいる。2023年11月に「中華人民共和国空域管理条例(意見募集稿)」が公布され、24年1月1日に「無人航空機飛行管理暫定条例」が正式に施行された。このことは、中国の無人機産業が、法律に基づいて「秩序良く」発展する段階に入ったことを意味する。