「レム睡眠」の減少は
認知症リスクを招く

 さらに、睡眠が減ると実年齢以上に加齢が加速してしまうという。

「睡眠は加齢とも相関しています。不十分で良くない睡眠を続けていると加齢関連疾患が加速します」

 たとえば、認知症。65歳の非認知症者1041人を対象としたコホート研究(疾病の要因と発症の関連を調べるために大勢の人を長期観察する研究)では、睡眠不足によって高まる認知症のリスクは4倍。一方で、レム睡眠が1%減るごとに認知症のリスクが9%増加することもわかっている。

 さらに、メタボリック症候群も寿命と同様に7時間を底にJカーブを描いており、うつ病と睡眠の関係も明らかになっている。それだけ睡眠と加齢関連疾患との関係には根深いものがあるのだ。

「逆に、個々人の睡眠の詳しい様態は、脳の老化を表す一つのマーカーになりえます」

 つまり、その人の睡眠の質を調べることによって、脳の老化の具合を判定できるということになる。

「年をとって寝られなくなった」「早く目が覚めるようになった」というお年寄りは多いが、確かに高齢になると睡眠時間は少しずつ減少する。さらに就寝時間も起床時刻も早くなるので、睡眠の中央時刻(就寝と起床の真ん中の時刻)が前倒しになり、若年者に比べて深睡眠とレム睡眠が減少していく。

書影『老化は治療できるか』(文春新書)『老化は治療できるか』(文春新書)
河合香織 著

高齢者は中途覚醒が多く、連続した睡眠が維持できなくなる。良い睡眠は脳の加齢や身体の加齢関連疾患を予防すると考えられます

 だからといって、睡眠薬を使ってでも眠ればいいかといえば、必ずしもそうではないと柳沢機構長は言う。

「従来の睡眠薬を何年も続けて飲んでいると認知症のリスクが増えるという報告もあるし、薬によっては耐性や依存性が出るものもあるため注意が必要です」