向き合うビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

日本のビジネスシーンにおける「検討の上で回答させていただきます」は、遠回しな「お断り」を意味する場合がある。しかし、日本語を母国語としない外国人は額面通りに受け取ってしまい、交渉や商談に支障をきたすことも…。外国籍社員が日本で直面する「言葉の壁」について、あらためて理解を深めよう。※本稿は、国立国語研究所編『日本語の大疑問2』(幻冬舎新書)の、蒙 韞(もう・ゆん)による執筆箇所を抜粋・編集したものです。

「~しかねる」のような
「ない」を使わない否定が難しい

日本語の疑問
日本で働く外国籍社員にとって、どんな日本語が難しいですか

蒙 韞先生の回答
 日本人にとっては難しく感じないことでも、外国籍社員にとっては、難しいと感じてしまうことがあります。今回は二つの場面をもとに、なぜ外国籍社員には難しいのかをみていきましょう。

 ここでは、日本語の対比として外国籍社員の「母国語」という表現を用います。「母国語」とは国籍のある国の公の場で用いられる言語です。

 なお、「母語」という語もあり、これは幼児期に自然習得する言語を言います。

「母国語」と「母語」が同じ場合もあれば、異なる場合もあります。例えば、母語がモンゴル語、母国語が中国語と異なり、家庭内での母語使用はあるが、仕事上では母国語と日本語を使用しているケースもあります。

 それでは、以上をふまえて、外国籍社員の声を聞いてみましょう。

場面1 電話で話す時

 外国籍社員は、電話での聞き取りが難しいということが挙げられます。特に、漢字圏出身の外国籍社員はカタカナ語が、非漢字圏出身の外国籍社員は漢語が苦手な場合があります。また、電話相手の声が小さかったり、話すスピードが速かったり、電話相手が方言など馴染みのない言葉を使ったりした時にも、外国籍社員は難しいと感じてしまいます。

 元々自分の母国語ではないため、語彙力が限られている上に、通常より速いスピードや方言になると、ますますついていけなくなってしまいます。

 外国籍社員のAさんは電話相手の言葉遣いについて、次のように話してくれました。

「相手の言葉に『ない』という否定形が一切使われていないのに、否定の意味を含んでいる言葉遣い、例えば、(他の動詞の連用形に付いて、躊躇・不可能・困難などの意を表す)『~しかねる』が難しいです。突然聞いたら、相手が何を言いたいのか、いったい肯定しているのか否定しているのかすら分からないです。」

 それ以外にも、日本語と母国語のどちらにもあって、違う使い方をする言葉も外国籍社員にとっては難しいです。違いがよく分からないまま、母国語と同じ使い方をしてしまうと、問題が生じて困ったことになります。