程度=可能性の解釈が
外国とのビジネスの障壁に

 提案をしたり、結論づけたりする時の「程度(可能性)」を表す言葉を難しく感じる人もいます。中国出身の外国籍社員のDさんは次のように語ってくれました。*1

「日本語だと、ちょっと曖昧ですね。だから、日本語で言うと、いったいどの程度の可能性になるのか、相手がその度合いをどれぐらい理解してくれたのかがよく分からないです。

 例えば、中国語で『这件事情差不多(このことはほとんど)』と言ったら、80%の可能性があります。『这件事情比较难办(このことは比較的やりにくい)』と言ったら、50%の可能性があります。『这件事情绝对不可能(このことは絶対不可能)』と言っても、まだ10%の可能性があります。このような言い方を(そのまま)日本語で言っても、相手には分かりづらいし、自分も(どの程度になるかを日本語で)表現できないので……。

書影『日本語の大疑問2』(国立国語研究所編、幻冬舎新書)『日本語の大疑問2』(国立国語研究所編、幻冬舎新書)
市村太郎 著

 中国人はよくこういう言い方をしますが、日本人はどちらかというと、実現できるかどうかを見ますね。日本は(中国に比べると)計画性を重視するので、中国人のこのような言い方だと、その案件を来月の売上に入れられるのかが大きな問題になります。だから、いつも日本人の上司に、『いったいこれは入れるのか? 入れないのか?』と聞かれます。その『程度』によって提案をしたり、結論づけたりすることは本当に難しいです。」

 みなさんも、周りの外国籍社員が今、困っていたり、戸惑っていたりしていないかを気に掛けてあげて、困っていそうな時には、自分の言い方や見方などを変えてみてください。

 外国籍社員の母国語や母国の文化などに興味を持って、仲間として「こういう時にはどう言えば/すればいいのか」を相手と一緒に考えれば、言葉も文化も社会も、より豊かなものになるのではないかと思います。

【記事中の注】
*注1 外国籍社員の語りの日本語には多少不自然な所がありますが、そのまま記載しました。

【執筆者による関連論文】
*蒙韞、陶山千里、糸賀尚子、呉怡、本名勝(2022)「企業がグローバル人材に求める「多言語能力」「コミュニケーション能力」「異文化対応力」「プレゼンテーション能力」の一考察:量的・質的分析から分かったこと」『新たなるグローバル人材:外国人留学生の雇用と課題:人材育成学会 グローバル人材育成研究プロジェクト 調査報告書』人材育成学会(https://ssl.jahrd.jp/news/0045.html
*蒙韞(2021)「オンライン国際交流で見られた学生の変化・成長:オーストラリアのある大学とのショートプログラム」『留学生教育』第26号(留学生教育学会編集委員会編)、pp.101-108、厚有出版
*蒙韞、中井陽子(2020)「中国人社員と日本人上司による許可求めのロールプレイ会話の分析:会話参加者の行動と意識から探る外国人材育成のヒント」『国立国語研究所論集』第19号、pp.109-126、国立国語研究所学術情報リポジトリ(https://doi.org/10.15084/00002831