元東北楽天ゴールデンイーグルス社長で、現在は宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長と地方創生ファンド「PROSPER」の代表を務める立花陽三さんと、元プロ野球選手で現在は経営コンサルタントとして活躍されている高森勇旗さんの対談が実現した。立花さんのご著作『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)、高森さんのご著作『降伏論 「できない自分」を受け入れる』(日経BP社)を軸に、ビジネスからスポーツまで縦横に語り合っていただいた。今回のテーマは「体力」。仕事で成功するためには、おふたりは、「明晰な思考」「高度な分析」など「知力」も必要だが、それ以上に大切なのは「体力」だと断言します。それはなぜか? たっぷりと語り合っていただきました。(構成:ダイヤモンド社・田中 泰)
ほとんどの仕事は、最後は体力勝負
高森勇旗さん(以下、高森) 立花さんのご著作である『リーダーは偉くない。』で、体力の重要性について書かれていましたが、あのくだりに僕はめちゃくちゃ共感がありました。
立花陽三さん(以下、立花) それは嬉しいですね。高森さんはプロ野球選手で、僕は学生時代はラグビー選手だったから、お互いに体力には自信がありますから、我田引水と思われるかもしれませんが、ビジネスにおいても体力は本当に大切だと痛感しています。
高森 はい。僕がプロ野球選手を引退して、セカンドキャリアに歩み出したのは25歳のときでした。最初は、エンジニアの仕事をやってたんですが、体力がめちゃくちゃあるので、プログラムをほとんどノンストップで無限に書けるんです。全然疲れないし、寝なくても平気。24時間コードを書けたんです。
だけど、普通の人はすぐに「疲れた」「休みたい」「飲みにいきたい」と言うから、僭越ながら「これ、楽勝じゃん」と思ったんです。体力さえあれば、この世界で人よりちょっと前に出るのは簡単なんじゃないか。これは、僕にとってすごいアドバンテージというか、自信がもてるようになったんです。賢さとか、鋭い分析力とか、そういうのも大事ではありますが、最後の最後は体力勝負。そこに持ち込めれば勝てると(笑)。
立花 本当にそうだと思いますよ。僕は慶應大学ラグビー部で死ぬかと思うくらいハードな練習をさせられて、当時は、それが嫌々でたまりませんでした。だけど、新卒で外資系金融の世界に飛び込んで、大学の4年間で体力がめちゃくちゃについたことのメリットを痛感しました。金融知識なんかまったくなかったのですが、体力さえあればそんなビハインドはあっという間に挽回できますからね。
正直なところ、「こんなんでお金もらっていいの? 超楽勝じゃん」と毎日思っていました。会社に行くのが楽しくてならないっていうか。いつも元気だから、周りの人にも可愛がっていただけたような気がするし、体力があったら、多少嫌なことがあっても忘れられますしね。逆に、体力がないときは、何をやってもつらいでしょ?
高森 そうなんですよね。ご著作にも書かれていましたが、体力があれば、逆境に見舞われたとしても、運動をして休養をすればすぐに「体調」は回復します。そして、「体調」が整えば「気力」も充実し、その結果、「思考」の精度も高まる。だからこそ、危機的な局面においても、正しい判断を積み重ねることで、状況を好転させていくことができるんでしょうね。
「体力」がなければチャンスをつかめない
立花 そのとおりですね。そもそも、チャンスを掴むためには体力が不可欠ですよ。
チャンスというものは、いろんな人に会うなかで巡り合うものですが、体力がなかったら、毎晩のように自分より目上の方にお目にかかるだけのエネルギーがもちませんし、いざチャンスが訪れたときに、それこそ不眠不休でそれを掴みにいくこともできない。
おそらく、高森さんがチャンスを掴んだのも、体力の裏付けがあったからだと思いますね。
高森 たしかにそうかもしれません。
立花 実際、ビジネスで成功されている方の多くは、とてもない「体力」をおもちです。24時間365日フル稼働されているイメージで、「いつ寝ているんだろう?」という方もいらっしゃいます。
そういう方はとにかくエネルギッシュで、パワーがあふれています。向き合っただけで、そのエネルギーに押されるような感覚を覚えますし、口にされる言葉にも自然と「説得力」が備わっていらっしゃるように思いますね。
だから、僕は若い人にはいつも「いまのうちに体を鍛えたほうがいいよ」と言うんだけど、なかなか聞き入れてもらえないんですよね(苦笑)。
高森 そうだと思います。僕もそうでしたが、体力の重要性って、若いうちはあんまりわからないんです。そもそも体力があるから、体力をつけなきゃって思わないですからね。経営学者の楠木建先生がよくおっしゃる「事後性」でも説明できるかもしれません。
立花 「事後性」?
トレーニングほど確実に「リターンのある投資」は珍しい
高森 「事後性」とは、「今やっていることが未来に影響を及ぼすから、長い目でものごとを見る必要がある」といった意味ですが、楠木先生は「それができない人が多い」とおっしゃるんです。
特に、現在はYoutubeやTikTokの動画もどんどん短くなっている時代で、「タイパ(タイム・パフォーマンス)」などといって、すぐに効果のあること、すぐに結論みたいな風潮が強いですからね。読書やトレーニングのように、「今やったこと」が効力を発揮するのに時間がかかるものに意味が感じられない人が増えているのではないでしょうか?
立花 なるほど、そうかもしれませんね。僕もトレーニングほど確実にリターンのある投資ってないんじゃないかという気がするので、実にもったいないことですね。
高森 僕はわりと素直なほうなんで、歳上の経営者の方々に、「結局、最後は体力勝負だぞ」と言われると、「みなさんがそうおっしゃるなら、鍛えとかなきゃ」と思うんですが、多くの若い人は「そうかもしれないけど……そんなことを言われてもなぁ」という感じで、なかなか響かないのかもしれません。要するに、いまは体力があるから、その問題に直面していないからなんでしょうね。
立花 なるほどね。歳を取ると、体力差がパフォーマンスに決定的な差をもたらすことを実感できるんですけどね……。僕は、将来のキャリアアップのために勉強するのも大事だけど、とにかく身体を鍛えたほうがいいと強くおすすめしますね。
その意味では、僕なんかは慶應大学ラグビー部時代に、理不尽なまでにきつい練習をさせられて、それが本当にイヤだったけど、そのおかげで体力の基礎をつけてもらったわけで、それは感謝すべきことなんだと今は思いますね。