元東北楽天ゴールデンイーグルス社長で、現在は宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長と地方創生ファンド「PROSPER」の代表を務める立花陽三さんと、元プロ野球選手で現在は経営コンサルタントとして活躍されている高森勇旗さんの対談が実現した。立花さんのご著作『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)、高森さんのご著作『降伏論 「できない自分」を受け入れる』(日経BP社)を軸に、ビジネスからスポーツまで縦横に語り合っていただいた。今回のテーマは「リーダーシップ」。立花さんが楽天野球団の社長だったころのエピソードをもとに、「部下が動かない」のはリーダーの問題であることを明らかにしたうえで、その問題を解決するためのコツについて語り合っていただいた。(構成:ダイヤモンド社・田中 泰)

「頑張ってるのに結果が出ない人」がかかっている“呪い”を解く方法とは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「一生懸命の呪い」にかかってはならない

立花陽三さん(以下、立花) 高森さんは、ご著作である『降伏論』で「一生懸命の呪い」について書かれていますが、たいへん共感しました。高森さんご自身が、プロ野球選手として千切れるほど一生懸命練習された経験があるからこそ、重い言葉だと思いました。

高森勇旗さん(以下、高森) ありがとうございます。僕は、6年間のプロ野球生活において、もうあれ以上頑張れないと思うくらい一生懸命やりましたが、一軍で生み出したヒットはプロ通算で1本でした。だからこそ、「一生懸命やれば、必ず報われる」という言葉は、必ずしもそうではないと頭ではわかっていましたが、どこかでその考えにすがりたい気持ちがずっとあったんです。

 だけど、引退してしばらく経ったときに、気づいたんです。「一生懸命やれば、必ず報われる」という言葉にすがるのは、「どうすれば結果を出すことができるか」という考えを諦めた者の思考回路だ、と。

 “一生懸命”は、現実を直視せず、結果に至るための具体的な方法を考えることを諦め、冷静さを失った者たちによって生み出される幻想の世界なんです。

 もっと言えば、その世界の住人は、怠惰によって結果が出ない者たちを見下し、少なくとも自分はあのグループの人間たちとは違うと主張し、結果の出ているAグループと同格に自らを扱おうとします。

 結果が出ないときは、「でも、一生懸命やった」と言い、やり方を変えようとせず、同じプロセスで次の機会に臨む。そして、次回結果を出すための秘訣は、「もっと、一生懸命頑張る」。

「一生懸命やれば、必ず報われる」という言葉には、そんな悪循環に陥るリスクがあると思うんです。それを、僕は「一生懸命の呪い」と言っているんです。

立花 本当にそうですね。一生懸命頑張ることは大事なことだけど、忘れてはならないのは、「どうしたら結果が出せるか?」ということを真剣に追求することですからね。

 時に人間は、一生懸命やっていることに酔ってしまって、自分が置かれている「現実」から目を背けてしまうことがあるから、要注意ですね。

「結果を出す」に常にフォーカスする

高森 はい。『リーダーは偉くない。』では、いろんなエピソードを紹介しながら、リーダーシップについての考察がされていますが、そこに一貫しているのは、「常に結果を出すことにフォーカスしている」「結果を出すことから逃げない」という立花さんの意思だと思いました。しかも、その「結果を出す」とは、「お客様にワクワク感や感動を与える」ことだということも一貫している。

 特に印象的だったのは、メンバーを鼓舞するために、リーダーが「絶対に勝て」「がんばれ」などと声をかけるのは無意味だという言葉です。そんなことよりも、リーダーがやらななければならないのは、「どのように頑張ったら、結果を出せるのか。その方法を示すことだ」と。

「頑張ってるのに結果が出ない人」がかかっている“呪い”を解く方法とは?高森勇旗(たかもり・ゆうき) 1988年富山県高岡市生まれ。2006年、横浜ベイスターズ(現DeNA)から高校生ドラフト4位で指名を受け入団。08年にイースタンリーグで史上最年少サイクル安打達成。09年にイースタンリーグで最多安打、技能賞、ビッグホープ賞を獲得。12年に戦力外通告を受け引退。引退後は、データアナリスト、ライターなどの仕事を経て、ビジネスコーチとしての活動を始める。コンサルタントとして延べ50社以上の経営改革に関わり、業績に貢献。著書に『降伏論 「できない自分」を受け入れる』(日経BP社)がある。

立花 それは、元ラグビー日本代表監督で、三井住友銀行でバンカーとしても大活躍された故・宿澤広朗さんの言葉ですね。僕が若い頃からたいへんお世話になった方で、大きな影響を受けた方です。

 宿澤さんは、日本代表監督として、日本が一度も勝てなかったどころか、100対0くらいの惨敗をしていたスコットランドから大金星を上げたことで知られますが、そのスコットランド戦に勝てたのは、相手の弱点を徹底的に研究したうえで、「こうしたら勝てる」という戦術を選手たちに何度も何度も繰り返し説くとともに、実戦プレーにおいてその有効性を実感させていったからです。

 もともと、選手たちは内心では「勝てっこない」と思っていましたが、宿澤さんの話を何度も聞くことで、「勝てるかも!」という気持ちになり、最後は「俺たちは勝てる!」という気持ちに変わり、顔つきも変わっていった。だからこそ、勝てたと言われているんです。

高森 素晴らしいお話ですね。正しい「戦術」があり、その「戦術」で勝てるとメンバーが本気で思えれば、チームが勝つ確率は高くなるはずです。そして、それは、スポーツだけではなく、ビジネスにも通じることなんでしょうね。

 実際、経営幹部のコーチングをさせていただいている立場から見ても、優れたリーダーは、みなさん「結果を出す方法」を具体的に示されていると思います。リーダーが「結果を出す方法」を示すことで、メンバーが「一生懸命の呪い」にかからないようにしていると言ってもいいかもしれません。

 ただ、ここでさらに重要な問題があると思うんです。

立花 何ですか?

「部下が動かない」のはリーダー本人の問題である

高森 宿澤さんのようなカリスマリーダーはいざ知らず、一般的なリーダーの場合、「結果を出す方法」を具体的に示したとしても、メンバーがそのように動いてくれるわけではないと思うんです。人間というものは、そんなに簡単じゃないですから。

 ここで、多くのリーダーは、「私は的確な指示を与えているのに、部下がそのように動かない」と言い出すんです。だけど、これを言い出すリーダーは、この壁を越えることができません。なぜなら、部下が動かないのが問題なのではなく、部下を動かせていないリーダーの問題だからです。

立花 たしかに、そうですね。

高森 そこで、『リーダーは偉くない。』を読んで感動したのが、社員さんたちに「観客動員数」を自分ごとの問題と思わせるための仕掛けについて書かれた箇所なんです。

立花 ああ、あれはうまくいったので、僕も自慢してるんです(笑)。僕が楽天野球団の社長になった当時は、「観客動員数」を意識している社員はほんの一部だったんです。僕は、「コストカット」によって「黒字化」を目指すのではなく、「観客動員数」を増やすことで「黒字化」を達成すべきだという考えでしたから、なんとか社員たちにも自分ごとにしてもらう必要がありました。

 そこで思いついたのが、僕が社長になってすぐに整備した「社員食堂」を使った仕掛けでした。まず、年間の観客動員数の目標を定めたうえで、試合を行う曜日や開始時間、対戦相手の人気度などを勘案しつつ、一ゲームごとの動員目標数を設定。そして、累積動員数が目標値を上回っている間は、ランチを「無料」にして、下回っている間は「300円」をいただくことにしたのです。

 正直、「300円」という料金も破格の安さですから、目標を達成できなかったからといって、社員の懐が大きく痛むことはありません。それでも、「お金がかかるか、無料か」の差は大きい。わずかばかりとは言え、実際に「支払うという行為」があるからこそ、社員たちに「観客動員数」を自分ごとにしてもらえると考えたんです。

「頑張ってるのに結果が出ない人」がかかっている“呪い”を解く方法とは?立花陽三(たちばな・ようぞう)1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。

高森 面白い仕掛けですよね。

立花 この狙いは見事に当たりましたね。しばらくすると食堂では、経理担当、営業担当、広告担当など、あらゆる部署の社員たちが集まって、「昨日で目標数字を超えたから、今日から無料だよね」なんて会話で盛り上がるようになったんです。

 逆に、試合が始まって「観客動員数」が伸びなかったら、「あと100人は入ってくれないと、明日からランチが有料になってしまう。なんとか、お客様に来てもらえないかなぁ……」とあわてて策を練る社員も出始めました。こうして徐々にみんなの意識が「観客動員数」に向かっていくとともに、「観客動員数」を増やそうという機運が社内に広がっていったんです。

 しかも、ランチ代はすべて会社負担で予算を組んでますから、「300円」はイベント経費としてストックすることにしていました。だから、いろんな部署の人たちが、「こういうイベントをやったらどう?」「あれが面白いんじゃない?」などと、自分ごとのようにアイデアを出すようになった。そして、口を出したら、手も出したくなる。気がついたら、みんなが協力しあうような状況が生まれていたんです。

高森 いや、ほんとに素晴らしい。こういう「知恵」の働くリーダーって、あまりいないんじゃないでしょうか。僕は、これは「すさまじい」とすら思いましたよ。

 そして、優れたリーダーは、こうした「仕掛け」によって、部下が「一生懸命の呪い」から解き放って、楽しみながら結果を出すために全力を上げる機運をつくっていくんだと思うんです。

経営に必要なのは「センス」である

立花 そう言ってもらえると、嬉しいです。ただ、僕からすると、こういうのって「悪知恵」みたいなものなんです。なんか、楽しい仕掛けをして、社員たちにその気になってもらおうっていうか。命令したって、人の意識は変わりませんからね。こういうのって、子どもの頃からイタズラばっかりやってきたヤツのほうが得意なんじゃないかと思います。

高森 わかります。仕掛けを通して、立花さんは社員さんたちとコミュニケーションをされたということだと思うんですが、コミュニケーションがうまくいってる人はたいてい、若い頃から相当喧嘩してきたような人が多いように思います。

 おそらく、他者との軋轢を数多く経験するなかで、他者との関係性について鋭敏なセンスを身につけられてるじゃないでしょうか。

 どこまでやったら相手を傷つけるか、相手に嫌われるか、逆に何をやったら相手といい関係を築けるかといったことに、鋭敏なセンスが磨かれているんじゃないかと思うんです。立花さんは「悪知恵」とおっしゃいますが、それは人間心理を知っている人間のセンスの現れと言えるのかもしれませんね。

立花 そんなに格好いいもんじゃないですよ(笑)。だけど、経営というものは、「理屈」だけでどうにかなるようなものではなく、さまざまな経験を通してしか身につかない「センス」のようなものが重要だという実感はありますね。

 ちょっと強引かもしれませんが、その意味でも、スポーツ経験というのは重要だと思っています。

高森 どういうことですか?

立花 僕自身、ラグビーというチームスポーツをやった経験や、慶應大学ラグビー部で厳しい上下関係を経験するなかで、人間関係力とか、空気を読むとか、そういうセンスをずいぶんと磨いていただいたと思っています。

 なかには理不尽と思えるような経験もありましたけれど、そういうものを全部避けちゃうと、人間社会を生きていくうえで欠かせないセンスも磨かれないように思うんです。いいストレスがかかるような状態でこそセンスは磨かれ、そのセンスがあるからビジネスもうまくいく。

 それは、プロ野球選手からコンサルタントに転身して成功されている高森さんご自身が体現されていると思います。だから、アスリートをめざして訓練をした人は、仕事もうまくいくんだということは伝えていきたいと思っています。