たとえば同国は、16年以降、国後島と択捉島に「地対艦ミサイル」を配備しています。これは、敵の軍艦などを狙う地上発射型のミサイル。また20年12月には、ロシア・メディアが、両島に「地対空ミサイル」が配備されたことを、報じています。これは、軍用機などを撃ち落とすミサイルです。

 両島には最新鋭の戦車や無人偵察機を含む地上部隊が、択捉島の飛行場には戦闘機が3機ほど、駐留していることも伝えられています。北方領土以北の千島列島にも近年、ミサイルが配備されています。

 さらに、同国は20年7月、「領土の割譲」を禁止する条項の入った基本法(憲法)改正案を、国民投票で決めました。これに関して、プーチンは21年2月、ロシアのメディア企業の幹部との会見で、「日本との関係を発展したいし、発展していくが、基本法に反することは一切しない」と語ったこと、が明らかになりました。これは、北方領土は返さないことを意味する、と受け取られています。

 また、同国は22年3月、北方領土と千島列島に進出する国内外の企業に対して、所得税などの20年間の免除、の実施を決めています。事実上の「経済特区」を作る動きです。

 これに関連して、陸上自衛隊のトップである陸上幕僚長を務めた岩田清文氏は、「ロシアはオホーツク海の聖域化を狙って」いる、と語っています。

書影『ニッポンの数字――「危機」と「希望」を考える』(ちくまプリマー新書、筑摩書房)『ニッポンの数字――「危機」と「希望」を考える』(ちくまプリマー新書、筑摩書房)
眞 淳平 著

 同氏によれば、ロシアはこの海域に、米国の首都ワシントンD.C.を射程圏内に収める、核兵器の搭載可能な「新型弾道ミサイル」を発射できる原子力潜水艦(原潜)を、21年初の時点で2隻、将来的に4隻に拡充して配備。

 そして近年、原潜を守るため、千島列島に1個師団(注:1万人前後)の兵力と地対艦ミサイルを配置。これによって、米軍の艦艇がオホーツク海に入れないようにしている。だから、「この千島列島防衛ラインにある北方領土を返すなんてことは、軍事的にはありえない」と言うのです。

 そうであれば、ロシアが北方領土を返す可能性は、残念ながら、きわめて低いものに留まるかもしれません。

図表:北方領土の位置ロシアから見れば、北方領土を実効支配することで、米国から攻撃を受ければ、この周辺海域に潜む潜水艦が、核ミサイルを発射して反撃するとして、米国に対する抑止力を保持していることを示せる(同書より転載) 拡大画像表示