昨年、カルソニックカンセイの視察に訪れたカルロス・ゴーンCEO(右)は呉文精カルソニック社長(当時)と固い握手を交わしていた
Photo:日産自動車HP

 4月1日に発足した日産自動車の経営体制に“異常事態”が生じている。日産の部品子会社、カルソニックカンセイ社長から日産本体の常務執行役員に登用される予定だった呉文精氏が、急遽、日本電産へ転身することになったのだ。すでに3月11日、日産は呉氏の昇格を含めた新役員人事を公表しており、任命責任のあるカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)ら経営陣の顔に泥を塗ってしまった格好だ。

 当分、アジアマネジメント(中国などアジア地域の窓口)、関係会社オペレーションを担う予定だった呉氏の後任は置かない。前者のアジアを西川廣人副社長が、後者の関係会社を片桐隆夫副社長(販売会社担当)と大谷俊明常務執行役員(生産会社担当)が兼務する。「向こう1年は、現体制の微調整でやり過ごし、早期に混乱を収束させる」(日産幹部)意図があるようだ。

 なぜ、呉氏は土壇場になって翻意したのか。呉氏は、旧日本興業銀行、米ゼネラル・エレクトリック子会社社長を経てカルソニック社長に就任しており、いわば、キャリア向上を求めて転職を重ねるジョブホッパーである。そもそも、日産出身ではない呉氏は、日産役員の地位に対して特段の執心はない。

 その上、「日産の最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミッティ(EC)メンバーが高齢化・硬直化しており、日産での飛躍的な出世は難しい」(日産幹部)。そのため、車載モーターを主力事業として拡充する日本電産で功績を挙げて、ポスト永守重信社長の後継者レースに名乗りを上げたのでは、との観測が流れている。

 確かに、ECの人事は“滞留”している。現在、ECメンバーは日本人5人、外国人5人で構成されている。2005年にゴーンCEO-志賀俊之最高執行責任者(COO)体制がスタートして以降、外国人の比率こそ上がっているものの、日本人では志賀COO、2人の副社長は留まっている。