取締役会メンバーの多様化では間に合わない

 現在は、特に、デジタルトランスフォーメーション、社会の価値観の変化、新しい消費者のニーズ、地政学的リスクへの対応などについて、迅速な適応を要求される時代だ。よって、それに対応するように意思決定の場を工夫していかなくてはならない。

 この問題に対処するための一つのアプローチとして、よく言われるのは取締役会の多様性を高めることである。性別、人種、専門知識、業界経験の多様性を持たせることで、組織はより広範な視野を持つことができ、さまざまな視点からの意見を採り入れることが可能になると言われている。

 多様性を高めるために、取締役のスキル・マトリックス(取締役の持つスキルなどを一覧表にしたもの)などが作られることがあるが、実際に重要なのは取締役会のメンバーの多様性ではない。取締役会は、執行者たちを選任し、基本的にはその執行者たちが会議にかけてきた議案の最終決定をする場である。最終場面だけ多様化しても、取締役会に上がってくる前の段階で、高齢者特有の価値観によってバイアスのかかった意思決定が行われているのであれば、ほとんど意味を持たない。

 組織は、新しい技術やトレンドに対する理解を深め、変化する市場に迅速に対応する能力を高めなければならない。だからこそ、取締役会の下の層である、執行側のリーダーたちに、若い世代や異なる業界の経験を持つ人材を迎え入れ、またとくに発展著しいAIなどの技術の知見を組み入れていかなくてはならない。執行リーダーのスキルや価値観の多様化こそが重要なのである。

 もちろん、年齢も重要である。何でもかんでも十把一絡げに世代論で片付けることも危険だが、世代ごとの価値観というものは確実にある。特定の世代が多数派を占めると、その世代の価値観が意思決定に影響する。(例えば、その世代に対して圧倒的影響力をもったマンガなど、カルチャー、風俗の影響は大きい)。

 さらに、継続的な教育と学習の機会を提供することも重要だ。取締役会や執行側のリーダーが最新のビジネストレンドや技術について学び続けることで、組織全体の知識ベースを強化し、変化に対する適応力を向上させることができる。そのとき、「変化についていけない」のであれば、年齢にかかわらず、その時点で自ら辞めるか、強制的に辞めてもらうべきである。

 中には、最新の技術はわからなくても、誰に任せればよいかはわかるし、意思決定の勘所はわかるから経営はできる、と言う人もいる。しかしながら、そんなことを言っている時点で、新しい技術や社会変化についていけていないことを自ら証明しているようなものである。

 新技術はどのような人が評価されるかをも変える。とくに高齢者は、技術よりも人を束ねる力を過大評価する傾向にあるが、新技術によって、その束ね方も違ってくるのであるから、任せるべき人のタイプも変わるのである。

 このように見てくると、やはり取締役や執行リーダーが高齢層に偏ることには大きなリスクがあると言わざるを得ない。もちろん、多様性確保のために、一定比率で年齢の高い人がいることは良いが、基本的には高齢者の集団にかじ取りを任せてはならないのである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)