シンガポールの投資ファンド、グローバル・ESG・ストラテジーが、学習塾「第一ゼミナール」を展開するウィザスなど4社に、大株主からの個別面談の要請に取締役が応じることを義務付ける株主提案を出した。対象には社外取締役も含んでいる。特集『社外取バブル2024最新版「10590人」の全序列』(全14回)の#2では、同ファンドを運営する投資会社、スイスアジア・フィナンシャル・サービシズの門田泰人最高投資責任者(CIO)を直撃。社外取にも大株主との個別面談を義務付けるという異例の株主提案を出した狙いを聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
昨年度から日本株に本格投資
対象はESGに課題を抱える企業
――グローバル・ESG・ストラテジーとはどのようなファンドなのでしょうか。
ファンドを運営するシンガポール拠点の投資運用会社、スイスアジア・フィナンシャル・サービシズは、その名の通り欧州とアジアをブリッジする目的でスイス人によって設立されました。元々は欧州の投資家が主でしたが、今では世界中の投資家の資金を元に、株式や債券、不動産など約30のファンドを運営しています。私は2022年にスイスアジアに入社し、グローバル・ESG・ストラテジーを立ち上げました。日本株に対するアクティビスト投資がメインで、昨年度から本格的に日本企業に投資を始めました。
――アクティビストファンドが日本株に投資する流れが広がっています。投資方針について聞かせてください。
元々日本株は米国株より割安でした。けれど、割安でも投資対象にはなってきませんでした。それは、非効率な経営が改善する期待が薄かったためです。割安な株が上がらずに割安なまま放置されることをバリュートラップといいますが、まさに日本株は割安だと思って投資してもバリュートラップに陥る可能性が高いと海外投資家からは見られてきたのです。私は投資銀行時代も含めて長年資本市場の世界にいますが、残念ながら、海外の投資家からの日本企業の評判は良くありませんでした。
しかし、足元では東京証券取引所などの主導による企業統治改革やPBR(株価純資産倍率)改革が進んできていて変革の期待が高まっています。加えて、米国では、アクティビストがもともと効率的に経営されている企業の「かちかちの雑巾」の最後の一滴を絞るようなことをしてきましたが、日本では、企業はネットキャッシュが過大に積み上がっていたり、経営が非効率になっていたり、まだまだ改善の余地が大きく、ずぶぬれの雑巾のような状態といえます。
ただし、そのままでは割安に放置されている根本原因が変わらず、バリュートラップに陥ったままになってしまいます。そこをアクティビスト投資によって個々の企業の変革を後押しできれば、株主共同の利益に資することはもちろん、最終的には日本経済にとってもプラスになります。
私は、今の変革の機運を、日本の資本市場が、株価が低迷する企業ばかり存在する場ではなく、魅力的な企業であふれ世界から投資を呼び込む場に変わるチャンスと捉えています。上場企業には、資本市場の機能をうまく活用して積極的に投資をし、優秀な人材を集め、より良い製品・サービスを開発し、さらに成長していく、そうした本来の姿を取り戻してほしいと思っています。
このような考えの下、グローバル・ESG・ストラテジーの投資方針はバリュー投資、つまり割安な企業に対して投資します。そして、その名の通り、ESG(環境・社会・企業統治)に着目しています。ただし、投資対象はESGが十分に達成できている企業ではなく、ESGに課題を抱える企業です。そうした企業はESGが改善すれば、企業価値の大きな向上が見込めるのです。現在は20社ほどに投資し、今年は学習塾「第一ゼミナール」を展開するウィザスや、工業部品専門商社の日邦産業など4社に株主提案を出しました。
――今回の株主提案の中には、大株主からの個別面談の要請に取締役が応じることを義務付ける議題があります。どういった内容なのでしょうか。