たぶん6インチくらい外角に外れていたんじゃないか。それをヒットにするんだから。試合後に確か、「出塁しようと決めていた」って言ったと思うけど、「決めていた」ってねえ。確かに漫画の世界のことのようだった。彼の内面で起きていたことが、パフォーマンスとなって発揮されたシーンだった。それが特別なアスリートである証なんだ。プレーを見ているだけで、その人を知っているかのような気分にさせてくれる。あの大会を通して、大谷の競争心の強さを思い知らされた。

書影『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新聞出版)『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新聞出版)
サム・ブラム 著、ディラン・ヘルナンデス 著、志村朋哉 聞き手・訳

サム WBC期間中は、エンゼルスのスプリングトレーニングを取材していた。大谷が最後の先発登板をした後に、エンゼルスの監督や選手に、大谷の活躍をどう思ったのか聞いた。もう大会では投げないということだったから。でも、たしか準決勝で勝った後に、大谷がインタビューで、決勝戦での登板の可能性をほのめかしたんだ。それで球団はちょっと焦った。「大変だ。シーズンで勝つためには、彼が必要なんだ。今シーズンは彼の健康状態にかかっているのに」って。でも大谷には、このトーナメントを勝ち抜くという使命があった。そして、それを成し遂げた。結果的にも、最後の試合で投げたことがシーズンに影響を与えたとは全く思わない。

 大谷とトラウトの2人でエンゼルスを勝たせることはできなかったけど、チームメイトとしてWBCで対決したことは、球団にとっても、歴史的な場面として語り継がれると思う。

 大谷の存在が、大会を特別なものにしたのは間違いない。これまでのWBCは、物議を醸したり、面白みに欠けたりと、(アメリカでは)それほど重要だとは見られていなかった。でも大谷の活躍で、WBCのステータスが上がったと思う。特に野球ファンにとっては、サッカーのワールドカップ的な存在になったと思う。